【<物語>シリーズ セカンドシーズン5話 猫物語(白)】羽川翼の長い夜が、明けた【感想】


猫物語(白) 第懇話『つばさタイガー 其ノ伍』

 今回はOPなし。4話レビューが普通にOP考察を書く最後の機会だったみたいで、ギリギリセーフでした。前回書いてて良かった(笑)。

●自分を探し回る翼

 卒業証書の左には、翼が書いている手紙の内容が書かれている。こんな手紙を書けた事自体が翼の成長の証、それを卒業証書で演出している。

 トランクを開けて旅行準備をするところだけ"翼=苛虎"が出ていったという意味が重ねられている。それ以外は翼。自分を直視できず、(幻の)自分を求め世界中を自分の足で探し回る(自分は世界に1人だけ。世界中探しても見つかりはしない)。苛虎が出る前から自分を探していた翼も演出してるので、苛虎が重なってる部分の時系列に多少の前後がある。

「図々しいお願いですが、図々しくなろうと決めました。多分、阿良々木君はがっかりするでしょうね」

 翼がこう話す時に映るのは、顔を俯け足を抱え込み三角座りで座り込む翼。車やバイクやラクダやイカダに運ばれるだけ。図々しく他人(=ブラック羽川)に運んで貰うだけ。本当にただの普通の人。やっとそんな姿になる(ブラック羽川に頼る)事ができた。

「彼が私に見出している価値と言えば、戦場ヶ原さんの言うところの、私の白無垢さ、欠けている野生だけなのですから。阿良々木君を落胆させたくはない」

 この時に映るのは、魚を咥えた(腹を空かせた)熊の傍で釣りをする翼、戦場で食事する翼、豹やライオンの傍でジュースを飲む翼。"野生=危険意識"が欠落していたかつての姿。異常さが良くわかる。

「ブラック羽川さん。本当に、これが最後のお願いです。辛い役目を押し付けるのは、これが最後です」

 この時、通りかかったトレーラーが止まってくれた。"トレーラー=ブラック羽川"。ブラック羽川、障り猫のおかげで翼はかなり自分の心を探る事ができた。また「TO NEXT TOWN HELP ME」と書いたカードをカートの上に載せていただけ。立ち止まり、両手で抱え訴えていた訳ではない。翼が書くシーンはないし、なんだったら知らない間にカートに載っていたくらいの勢い。それを汲んで止まった(=助けた)のはブラック羽川の方。これらが、翼キャット、猫物語(黒)を示す演出。

「WHERE AM I?(ここは何処?)」

 ヒッチハイクをした翼が運転手にした質問。"WHERE ARE WE?"ではなく"WHERE AM I?"なので本来対象は自分。ここは何処だ?と独り言を言う感じ。そして"運転手=ブラック羽川"なのでWEではなく"2人の自分=I"。よって、その意味は"ここは何処?"ではなく"私は何処にいるの?"。
「羽川翼という私の物語を、しかし私は語る事ができない」
この1話冒頭の自分を認識できない翼に繋がる演出。

「私達のもう1人の妹を助けてあげて下さい。家出中で、火遊びに夢中の、全く手の焼ける妹ですが、私は彼女の帰りを、いつまでだって待ち続けます」

トレーラーから降り「WHERE AM I」と方々を探す翼。"I=苛虎=私達のもう1人の妹"が重なる。

「私はあなた達を愛し、私を愛します。草草不一」

 しかし、世界中を探し回った旅の終点は日本。結局自分の国に帰って来た。ブラック羽川も苛虎も翼の心が生んだもの。世界中探したって見つかりはしない。

「逸らしていた目を正面に向けます。だからお願いします、ブラック羽川さん。私の中に、私の心に、戻って来て下さい。苛虎と一緒に、帰って来て下さい。どうか、どうかお願いします」

独白の最初にこう言えた翼ならわかる。翼の心に受け入れる、それ以外にブラック羽川や苛虎の居場所はない。"日本に帰国した=自分を直視した"翼がそこに辿り着いた演出。

●ブラック羽川もマーキング

 手紙が終わり、ブラック羽川が出てくる。暦のベットで伸びをしたり、枕を抱え込んで寝そべったりするブラック羽川。後の台詞より、ブラック羽川も虎には勝てない=死ぬ覚悟をしているので、翼から継承している思い人=暦のベットにマーキングしている。

「当てのにゃいこの俺に、帰る場所ができたというだけの事で、帰る家があるというだけの事で、にゃぜこんにゃに、にゃんでもできそうな気持ににゃるんだ?嬉しいじゃにゃいか、にゃきそうじゃにゃいか」

"帰る場所=帰る家=翼の心"。暦だけでなく、翼のノートにもマーキングして戦いに臨む。

●吾輩は虎である

「吾輩は虎である。名前は苛虎。
どこで生まれたかの見当はついている。薄暗いじめじめしたところでシクシク泣いていた事だけを記憶している。嫉妬のみならず、全ての暗い感情で吾輩はできている。生まれ落ちた次の瞬間、吾輩は吾輩を産み落とした母体を見た。母ではなく双子の姉と言うべきか。どうやら吾輩の胸に宿る炎は、あの姉に起因しているようだ。強くて、硬くて、怖くて、脆い、あの真っ白な姉。(・・・・中略・・・・)本当に美しかった。あの美しさ、白さを支えているのが吾輩だと思うと、誇らしい」

 吾輩は猫である。名前はまだ無い。
 どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。

 "吾輩は猫である"は動物から見た人の我儘さ理不尽さなどを風刺的・戯作的に書いている。原文の羽川に対応する書生は、猫を煮て食うなど散々な言われようだ。しかし、その猫・虎に絶賛される翼。常人ではない、異常な美しさ・白さを強調している。

●むき出しの心、心に纏うもの

 そして苛虎はひたぎの家の裏の建設中ビルの上に立つ。ビルは鉄骨の骨組みのみ。余分なものがない、芯だけの、むき出しの心の演出。そして、そのすぐ傍に立つ別の棟の骨組みの上にブラック羽川がやって来る。ブラック羽川もむき出しのストレスを抱えた心。しかし、今は暦の服を身に纏っている。余分なものを身に着けている。

 また、操車場にシーンが変わるまで、ちょくちょくひたぎの家が背景に混じる。苛虎にとっては単なる発火対象だが、翼・ブラック羽川にとっては守りたい友達・翼をよろしくと頼んでくれた者、むき出しの心への取っ掛かり、僅かに刺さったクサビ。

●猫から人になった翼

 そして、ひたぎの家を燃やそうとする苛虎の前に立ち塞がるブラック羽川。しばらくは四つん這いで喋る。その間はずっと障り猫が喋っている。しかし、

「違う。そしてそれを俺は、いにゃ。これは俺じゃにゃいな。俺じゃないな。私だ。私も、羽川翼が否定する!」

こう言いながらブラック羽川・翼が立ち上がる。中身が猫から人になった演出。ここで翼は、ストレス・ブラック羽川を心に戻す事ができた。

●鉄骨の色は翼の心

 そしてここで鉄骨の色が赤から黄色に変わる。よって、鉄骨の色が翼の心を表しているのは確実だと思われる。そして黄色ははじめて出た色、ブラック羽川を取り込んだ色。しかしそれが青に変わる。1話で苛虎とはじめて会った時の色。逃げないと危険、負けを悟っている色。だが、それでも翼はエナジードレインで食い下がる。

 しかし、苛虎の一撃を受け、操車場まで吹き飛ばされる翼。鉄骨≒線路の色は灰色、諦め、戦意喪失の色。

●操車場の意味

 操車場は列車を目的の路線に入れる為の場所。苛虎をあるべき翼の中へと入れる場所。翼をここに吹き飛ばした時に、苛虎の負けは決まっていた、演出的には(笑)。

●長い夜が明けた

「無理だったにゃ。無茶だったにゃ。無駄だったにゃ」
「無理だった。無茶だった。無駄だった」

 そう諦める翼。しかし、間一髪、そこで暦が駆けつける。
「無理だったかもしれない。無茶だったかもしれない。でも無駄じゃなかった」
1〜4話、5話も今の今まで出番のなかった暦が、まるで主人公みたい(笑)。

 暦に告白し、失恋し傷つく事ができた翼。そして泣きながら苛虎を自分の心に戻す。普通の感情を取り込めた証、白と黒に塗り分けられた髪を朝日が浮かび上がらせる。ついに、翼の長い夜が明けた。
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2013年08月09日 21:54 by 元会長
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