「モテないし、花火に行く」
●裏表の激しい智子の演出
教室で夏休みに何をするか話す4人の中を突っ切ってトイレに向かう智子。その時や後のシーンで
「はいはい。これだからホントの愛を知らない奴らは」
「万が一、女性ホルモンMAXで運気までMAXなら花火にいく相手も」
「んー、なんか向こうから誘ってくれないかなー。もう誰だろうとホイホイ付いていくから」
これらの独白を智子がする時、半身や顔が部分的に切り替わり、禍々しいオーラに満ちた智子が映る。表にはそれを出さないが、心の中で黒い事を考える智子の裏表の激しさを強調する演出。
後に風呂に入っておらず朝からテカテカの智子を、異形の化物が埋め尽くす背景で演出していたが、それは周りからもわかる場合の演出。これらを比較すれば演出の差が良くわかる。
●流れ落ちる水は過ぎ去る時間
「花火大会か。去年はゆうちゃんといったな。ゆうちゃん・・・・今年は彼氏といくんだろうな」
「数日後には1学期が終わる。女子高生になってのはじめての1学期が。花火を一緒に見る人もいないまま。私は本当にこれで良いのか・・・・」
トイレや洗面台で水が排水溝にどんどん流れるのを見ながらの智子の独白。どんどん流れ落ちる水は過ぎ去る時間。そして"覆水盆に返らず"、それを遮る事ができず、2度と戻らない時間をこのまま流し去って良いのか焦る智子の演出。
●智子は妖怪?想像上の生物?
「いかにもド低脳女が読むような雑誌だ・・・・しかし!」
「恋をすると女性ホルモン分泌。(中略)最も多くエストロゲンが分泌される瞬間は、瞬間は・・・・っ、S、E、X・・・・セックスー!」
女性雑誌を読んでこんな怪しげな情報を真に受ける智子。その時、二宮金次郎の格好になる。「学校に通えず、薪を運びながら勉強した=頑張って苦手分野を勉強している」と言えなくもない。だが、智子は二宮金次郎と言うよりは、学校の怪談に出る夜中走り回る二宮金次郎像とかの類だろう(笑)。
「私が突然美少女になったのは、ゲームでエアー恋愛、エアーセックス的な事をやったから。女性ホルモンが分泌されて、いつの間にか綺麗に」
また、智子がこう
●細かい色々
「なんか朝からきたねえ・・・・なんだろう、例えるなら油で汚れたカラス」
風呂に入らず1晩中ゲームをした智子をこう形容した智貴。そして智子の髪のハイライトは油を水に浮かべた時のような虹色になっている。ホント、なんか汚い(笑)。
知らない男子が智子の背中を登ってる蟻を見つけ取ろうとする。それをうなじを触ろうとしたと勘違いする智子。男子が蟻の事を言ってるのに、受信状態が悪くなったテレビの様に画像が乱れプツンと画面が消える。思考が混乱し何も見えていない、話を全く聞いていない智子の演出。
帰りの電車で蟻が這い回る智子を見た男の
「俺の隣に頭にアリを飼っている女子高生がいる。何を言っているかわからねーと思うが・・・・」
はジョジョの奇妙な冒険のポルナレフの台詞パロ。
しかし、教室で蟻の事を教えようとした隣の男子とか、智子の周りはイケメン、しかも良い奴が多いな。逆に主人公・智子が黒くてゲスいという(笑)。
「人生楽しいなー!高校生になって色々あったけど、ようやく私の時代が来たんだ。これからも自信を持って生きよう」
今までのレビューでも再三書いたけど、"これらからも"より今までの惨状でも自信を失ってない智子。若干ポジティブ過ぎるその前向きさが智子の良いところだな!(笑)。
教室で花火にいく段取りを相談する話す5人。今回の最初、教室で夏休みに何をするか4人が話していた時はその中を突っ切って歩いた智子だが、ここでは5人の後ろを俯いて通り過ぎる。「自分は(エロゲで)本当の愛を知っている」という勘違いによる自信が砕かれた事による心境の変化を演出している。
●リア充がボッチを浮かび上がらせる
廊下を歩く智子。廊下の窓も壁も、カップルや友達同士で話す生徒達も真夏の陽光に白く塗りつぶされて良く見えない。一緒に過ごす誰かがいる者達が眩しくて見る事ができない智子の演出。つーか学校なのにカップル多すぎだろ・・・・リア充爆発しろ・・・・。
「本当にこれで良いのか?」
そう智子が自問する時、白く目が眩む廊下に智子は1人。眩しい周りに浮かび上がらせられた自分、廊下にまでくっきりと移った写像が、ボッチを痛烈に実感している智子の心情を演出している。
●男子は本に夢中
「ホントに誰でも良いから(花火に)誘ってくれたら嬉しいのになあ・・・・」
自演の電話を終え、智子がそう言う時、図書室で本を読んでいた男子がページを戻す。本に集中しており、前後の繋がりを確認する為に前のページを読み直している。智子の話が全く耳に入っていない演出。
●(レビューの)〆は良い話
以前、優とよく来ていた廃デバートの屋上にやって来た智子。誰もいない、誰も知らないこの秘密の場所が好きだった。でも、前から廃屋で薄汚れていた筈なのに、今日は更に少しだけ汚れて見える。
「ここなら、花火も少しは見えるだろうな」
そう智子が呟いた時、2人の男子中学生が屋上にやって来た。
「そうか、ここはもう私だけの場所じゃないんだ・・・・」
秘密の場所を失った智子の言葉が、夕風に溶ける。迫り来る夜の闇は深く、智子の姿も闇に沈んでいる。しかし、夕日の赤がゆっくり空を横に薙ぎ、辛うじてその軌跡が智子の腰下を一閃した。
「あ、あの・・・・わ、私もやっぱり良い?ここで一緒に見ても、良い?・・・・だ、駄目だったら帰るから、だから・・・・っ」
「あ、えっと、まあ、良いですけど・・・・」
「別に俺らのものじゃないしな」
「ありがとう・・・・(そうだ、私はただ花火が見たかったんじゃない。誰かと一緒に同じものを見て、楽しい時を過ごしたかったんだ)」
夕日が斬ったのは智子の目を覆っていた闇。秘密の場所を失っても、3人で再び秘密を共有すれば良い。年下ではあるけど、新しい友達を得た智子。
「明日から夏休み」
君がいた夏は遠い夢の中〜空に消えてえった打ち上げ花火〜♪名曲もぴったりハマって(意味深)次回に続く!
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