●昔の事だと実感できる演出
今回は半分くらいのシーンが、昔の絵巻物を見ていく感じで進んでいく。何枚もの絵を捲っていく紙芝居ではなく、長い絵巻を右から左にどんどん広げていく感じ。それに合わせて、ツヤを抑えた色彩と、少しザラつく和紙風の質感になっていて、絵巻っぽい絵柄になっている。これらにより"絵巻物=昔のもの"が連想され、忍の話が遥か昔の事なのだと画面から感じる事ができる。
また動くアニメでなく、スクロールする絵巻は、実際には知らない、体験を伴わない知識だけの情報を聞いている暦の状況を上手く表している。そして、これにはもう1つの演出意図もあって・・・・。
●遠い神の演出
また絵巻に限らず、昔の資料は公家や貴族、一般人からは遠い別世界の話が多い・・・・イメージがある(笑)。だから、昔、神として崇められた忍の話の演出として実に合っている。人がほとんど描かれない、誰1人助けられなかった悲しい神様の物語に・・・・。
●白と青が表す忍の気持ち
「どうもその湖、なんらかの信仰の対象になっておったようでな。(後略)ワシの性格がどうとかはともかく、ワシが神様向きでないのは確かじゃったろうな」
忍がこう言うところは絵巻ではなく、現在の塾跡の1室にいる忍と暦が映される。この時、室内はほとんど白で、窓から見える空の青との2色で画面の大半が埋められている。白は"頭が真っ白になる"などの言葉にあるように"空白"、何もない事を示す色。青は内省、自分の中に向かう色。
神なんかになってしまったせいで、1人目の眷族・初代怪異殺しを失ってしまった。神について語った忍の心はそんな自省と喪失感で埋まっていた。
また、室内にはいつの間にか子供の背丈くらいの台が現れていて、暦はその台にもたれかかって座っている。そして、その台の上にはラジオが置かれていて、忍の声はそのラジオから流れているかのようにくぐもっていた。一方、暦の声は普通に聞こえている。
これも忍の話が遠い世界の話である演出なんだけど、暦だけでなく、忍自身もこの話を遠くに感じている。失敗し眷族を失った喪失感、神になった事をなかった事にしたい拒絶のような思い、そんな忍の気持ちが伝わってくる。
●初代怪異殺しへの思い
続く絵巻部分でも神になった(事を悔いる)忍の話が続く。そして初代怪異殺しの話が出たところで、再び忍と暦が映される。今度は地下室のようなところにいる2人。奥の壁には巨大なステンドグラス(?)の明り取り窓(?)があり、そこから光が差し込んでいる。前の白と青の寒々しい感じと違い、地下で暗いけどどこか華やかな感じがするのは、テトリスとコラムスを足して割ったような柄の窓から入る明るい光のせいだろう。
また、後に忍が「暗闇」から逃げて南極に戻った時の話で
「じゃからワシは黄泉返らせた」
と言う時も背景がこのステンドグラスの窓になっていた。よって、この窓は初代怪異殺しの暗喩。
テトリスやコラムスのように複雑に積み重なっているけど、華やかで明るい光が入ってくる。初代怪異殺しは、忍にとって複雑な思いが積み重なってはいるけど、今でも色褪せない大切な存在である事が良くわかる。
また、この部屋には室内で漕げるように自転車が設置されている。そして忍はそれに乗ってペダルを軽快に漕いでいる。その足の軽さが、初代怪異殺しの事を話すのが楽しい忍の気持ちを良く表している。
おそらく絵巻のシーンの初代怪異殺しの話をはじめた時から、忍は自転車を気持ち良く漕いでいた。でも、その生業が怪異と戦うものだった事は余り口に出したくなかった。だから、この部屋のシーンの最初に忍はブレーキをかけた。
「どっかからお前の噂を聞きつけて、お前をやっつけに現れたという」
後にこの暦の台詞を聞いて、再び漕ぎ出していた自転車を止めたのも同じ理由から。
●ツンデレ忍
「良くないものが、全くそこに集まってない事に、ワシは全然気付かなかった」
忍がこう話す時に映されるキスショットの絵がエロ過ぎる(笑)。
「で、誰もいなくなったっていうのは、どういう事なんだ?」
そして話が進んで、暦のこの台詞からは屋上にいる忍と暦が映される。大半の人が暮らす地上から離れ、高ければ高いほどその場所の人口密度は低くなる。だから屋上や高い場所が暗示するのは孤独。そして、そんな屋上には上で書いた白と青に加え、曇り空まで描かれている。
「境界線を引いたように、ある一定の地域から先の村は、無事じゃったようじゃがの」
更に忍がこう言う時、金網越しに遠い地上が映される。上に書いたように、屋上は地上から遠い孤独な場所、しかも金網に仕切られより孤独が強調されている。
ここで忍は口では村人の事なんてどうでも良いように言ってるけど、本当は当時メチャメチャ落ち込んでいた。だから、近隣の村から人がいなくなり、社で塞ぎ込んでいた。そんな忍の姿が浮かんでくる。
でも、そんなところに初代怪異殺しがやってきた。部下が全て消えてしまった危機的状況で、忍を頼ってきたのだろう。
「で、ワシとしては当然そ奴の話を聞いて、ならば調査せねばならんのう、としかめつらしく言った」
忍はまたこんな事を言っているけど
「もう1回初代怪異殺しと一緒に村々を巡る事になった」
こう話すときは寝そべって明らかに楽しそう。上でも書いたように忍は初代怪異殺しの話をする時だけは、少し楽しそうに、明るく話している。村人達に対しても、初代怪異殺しに対してもツンデレでとても可愛い(笑)。
でも、その後初代怪異殺しと共に「暗闇」に遭遇し、南極まで逃げる事になった忍。その絵巻の最後で
「ワシが次に日本に来るのは、半年前の事になる。そしてワシはお前様に出会う事になる」
忍がこう言う時の南極の青白い氷が、(初代怪異殺しを失う事になる)忍の後悔と喪失感を暗示しているようで、とても切ない・・・・。
鬼デアルコト。
ソレダケニコダハリ続ケル吸血鬼デアル。
一番最初に絵巻から室内に戻って神の話をした時、こんな地の文が映された。神になったせいで仲良くなりかけた人達を悉く失ってしまった忍。そんな事を繰り返さないために、この後は敢えて鬼になったのかなと思ったり・・・・。
●対照的
そしてまた真っ白い室内に切り替わり、そこで話す忍と暦。ここで忍は「暗闇」に飲まれるまさにその時の初代怪異殺しの状況を暦に話す。
その時、今までとは打って変わって、忍の手を掴んだ初代怪異殺しの様子(を再現した忍の動作が)が動くアニメで伝えられる。今までの動かない絵巻と対照的なその動きで、初代怪異殺しの最期のシーンがどれだけ忍の頭に焼き付いているのかが、鮮烈に伝わってくる。これが最初に書きかけた、今回の大半が絵巻だった演出のもう1つの意図。
●元彼の話(笑)?
「取り残された、1人ぼっちになった」
この台詞の時、鏡に映った忍と実像の忍の両方が喋っている。鏡に映るのが自分だけだと、より自分が孤独なのだと認識させられる。強い孤独に囚われた忍の心が良く表されている。
「心が弱っただけ」
更にこの台詞の時は、薄暗い室内で逆光になり影に覆われた忍が映される。なのに窓は薄白くて、喪失感だけが灯る暗く沈んだ忍の心が伝わってくる。
忍は延々と吊り橋効果の話をしてたけど、
「お前様、ワシはこれから1人目の眷族を作った時の話をする事になるのじゃけれど、嫉妬はせんようにな」
今回の冒頭でこんな前置きをしていた。更に忍は、今も怪異殺しの名と心渡をずっと受け継いでいる・・・・。
人は嘘を吐く時饒舌になるって言うし、何回も共に怪異と戦った初代怪異殺しに忍が想いを寄せていたのはまず間違いない・・・・。
●青い光は・・・・
EDが明けてCパート。暦の台詞の端々からもそんな忍の気持ちを察し、どんな結末になるのか心配している事が伺える。
また、忍と暦の他に誰も座ってない席があり、それは初代怪異殺しの席。途中からはそれに白いスポットライトまで当たり、そこに誰もいない空白感・喪失感が強調される。
「鬼の1人語りは」(赤い光が消える)
「今は昔の400年前の物語は」(空席のスポットライトと青い光が消える)
そして最後の暗転シーンより、後ろの赤い光は吸血鬼に戻って初代怪異殺しを求めたキスショットの思い、空席と青い光は初代怪異殺しの思い。
「それまでワシは、なんとなく眷族を作っておらんかっただけであって、別に頑なな意思を持って1人身を貫いておった訳ではなかったが、青く燃え上がって消えた奴の死体の消滅を見届けて、ワシはもう2度と眷族は作るまいと、栄養摂取以外の目的で人の血は吸うまいと誓ったのじゃった、神にな」
だから、忍がこう言う時立ち上がって青い光と目線が合う=初代怪異殺しの事を見続けてると思うと凄く切ない・・・・。
でも、それは初代怪異殺しが最後には忍の方を向いて、忍のために心渡を形見に作った暗示でもある・・・・と信じたい・・・・。
そんな訳で「暗闇」の話を聞いてたと思ったら、死なせてしまった元彼の話だったでござる・・・・重過ぎるよ!400前に合わせてござる言葉にしても誤魔化せないよ!(笑)。
「だって結局、最終的には、彼女は、神としても、吸血鬼としても、人間と上手くやる事はできなかったのだから」
暦はこんな事を言ってるけど・・・・「暗闇」の中から夢渡が出てきて、初代怪異殺しを復活させるとか、「暗闇」の中で本当は忍の事が好きだったと書き残した何かが出てくるとか、まだまだハッピーエンドへの道はあるし!(震え声)。
・・・・そんな幸せに続く道が示されると信じつつ次回に続く・・・・。
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