●貝木の風景
冒頭は、夜の帳が町を隠し全てが闇に沈む時間。でも、ガラス張りのプラットフォームやビルの窓から漏れる灯り、外灯やネオンの灯りが、町の姿を闇の中に浮かび上がらせる。ただ、そんな灯りが届かない場所も至るところに存在し、町を斑に染めていた。
その町の姿が、太陽の、白日の下に晒されるとは言い難いけど、電灯に照らされた町の姿が、翼の話も含めた、貝木のこの町に対する理解度の表れ。
そして、そんな町に白くて冷たい雪が降り積もっていく。偽物語で"貝木らしくなく"中学生達を騙して、ひたぎを助けようとした事に対する貝木の後悔の雪が(この詳細は余接との会話の時に)。
●横道
翼の話で、この町が霊的に乱れていたからキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが呼び寄せられた事、臥煙伊豆湖はキスショット(略)を神に据えこの町を安定させようとしていた事、暦がそれを拒絶した事などを知る。
さて、23話レビューで書いたように、誰でも助けようとする暦、その心の強さ・一周した心の弱さ・思い上がりが怪異の忍を憑かせている(そしてそのせいで、暦が忍を神にしなかったせいで、撫子を神にしてしまった)。
そう言える相当強い根拠をまた思いついたので、ちょっと横道。
それは傾物語。あの世界で暦は、忍を助けようとして、でも助けられなくて、結果世界を滅ぼしてしまった。自分にできる事、できない事、忍を本当に助けられるのかどうかを見誤ったせいで、世界を滅ぼしてしまった。傾物語の本当の目的はこの伏線のためだったんじゃ、と思ったり思わなかったり・・・・。
●翼から見た撫子
話を戻して、貝木に撫子の印象を聞かれた翼はこう答える。
「気弱とか、内気とか、人見知りとか、大人しいとか・・・・そういう印象は持ちませんでした。私が彼女から受けた印象は、"相手にされてない"でした」
「"相手にされてない"のは私の方。私や、他のみんなの方。あの子の世界は徹底的に閉じている。誰が何を言っても、その言葉は届かない」
「あの子は本当は誰の事も好きじゃないと思います。あの子は誰の事も見ていません」
15話レビューで書いてた事が概ね当たってて良かった・・・・可愛かった撫子があんな事になって全然良くないけど、レビュー的には良かった(涙)。
●誰かを助ける事はできないない貝木
そして撫子の事も助けたいという翼に、今の撫子は幸せそうだぞと言う貝木。貝木にとっては"今の当人の気持ちが全て"。もし気持ちが変わったら、その時にまた望みを叶え直す。だから貝木には誰かを助ける事はできない。当人が自分でどう在るべきか見つけない限り、貝木は延々間違いを助長し続ける。
だから怪異退治はできても、貝木に誰かを助ける事はできない。
「本人が幸せだと思っているから幸せだという事にはならないでしょう」
「そうか」
「ええ、私はそう思います」
そんな貝木に、翼は目を瞑りながら、噛み締めるように、こう答える。2人を横から映す事が多いこのシーンで、この時だけ翼は正面から、貝木は斜め前から見た顔のアップが映される。貝木の心に翼の言葉が届いた事が伺える。だから後は貝木がどこまでそれを理解できるか・・・・。
●扇とメメ
次に翼は、言いにくそうに、心配事を貝木に尋ねる。それは忍野メメの家族、更にいうならメメの姪、つまりは忍野扇の話だった。でも貝木はメメは(そして貝木も)天涯孤独で家族は勿論、姪もいないと断言する。
微妙に扇が姪と言うのもあながち嘘じゃない、つまりメメも『暗闇』に似た何かから生まれた、怪異をあるべき姿に戻す何かなのかもと思ってみたり・・・・。
●クローゼットの中身は?
そして翼は最後に、撫子の部屋にある開かずのクローゼットについて知っているか、貝木に尋ねる。きっと大切なものが入っているのではと言う翼の言葉を聞いて、
「そうじゃない。なんの役にも立たない下らないものだ。危うくそう言いかけて俺はすんでのところで踏み止まった。不思議だ、(あんな重要なものを下らないなんて)どうして言いかけてしまったのだろう。あんな下らないもの」
貝木はこう思いながら翼のホテルから出ていくのだった。
翼のおかげでクローゼットの中のものの重要性に気がついた貝木。そんな風に、()に書いたように判断できるのはここで、左半分が外灯に照らされた公園が映されるから。冒頭の町のカットのように、"町の灯り=翼の話"で見る事ができた風景が映されているから。
・・・・視聴者的にはその中身が何か未だにわからなくて悶々とするんだけど(笑)。そして、開始から6分近く経ってやっとOPに。曲自体も好きだし、(内容を深く考えなければ)夏のバカンス、今なら南国への海外旅行気分で一息つけますね(笑)。
●気が緩んだひたぎ
OPが明けると、毎日神社に参拝し、神様、撫子と遊んでやった事や、何日かに1回日本酒を持っていった事、メメが拠点にしていた塾跡で知り合いの少女に会った事などを、貝木が独白する。
そして時は流れ2月1日の朝、撫子を騙す運命の日・・・・関係ないけど、1ヶ月もこんな高級そうなホテルに泊まるとか、伊豆湖の300万がなかったら大赤字だよね・・・・(笑)。
貝木はその事をひたぎに電話で告げる。するとひたぎは、もう貝木と話せなくなると思うと少し寂しいと、言ってしまった。更にそれを断るために憎まれ口を叩いた貝木を優しく笑ってスルーし、「最後に1度会っておく?」とまで・・・・言ってしまった。
だから貝木は話題を変えた、ひたぎの今の恋人・暦の話に。そして、ひたぎはまだ暦を言い包める方法を見つけられないでいた事が発覚する(笑)。貝木はそれも見抜いていたようだ・・・・。
「お前、もう少し後先考えて発言した方が良いんじゃないか?」
23話のミスタードーナツのカウンターで貝木はひたぎにこう言ってたけど、マジで計画性がなかった(笑)。
●我慢できなかった貝木
そしてひたぎが、撫子の事を諦めない暦に困り果てている事がわかる。暦に「ひたぎと撫子、どっちが大事なの?」と言う事もできないと言うひたぎ。
だから貝木は、そんな恋人とは思えないほど遠くて、すれ違っているひたぎと暦の話を聞いて・・・・我慢できなかった。
「なあ、戦場ヶ原。1つ聞いて良いか?・・・・お前、阿良々木の何処が好きなんだ?」
と聞かずにはいられなかった。ひたぎの思いもわからず、1人で無謀な道を進む暦。2年前、ひたぎの思いを汲んで、ひたぎの願いを叶えた貝木(この詳細は余接との会話の時に)。どうして自分では駄目なんだと、聞かずにはいられなかった・・・・。
「貴方じゃないところよ。阿良々木君だからよ。阿良々木君が阿良々木君でなかったら、きっと好きになっていなかったでしょうね」
"貝木以外"それが絶対条件。ひたぎのためなら、その母親も無関係の中学生達も巻き込んで、自分自身が傷つきながらでも詐欺を働く貝木。だから貝木のためにも毅然とひたぎが拒絶しなければいけない。そんなひたぎの気持ちが伺える(詳細は余接との(略))。
「良くわかんねーなー。今はそんな風に熱が入っていて、お前は阿良々木のためなら自分の命も犠牲にするほどに入れ込んでいるみたいだが、どうせ大学生になったら、あっさり別れたりするんだぜお前達は」
「ま、聞き流してあげるわよ。ここにきて全てをひっくり返すほど私も計算のできない女じゃないわ。ただ、どうしてそんな意地悪を言うのか教えてくれる・・・・?」
そしてそんなひたぎの気持ちはわかっても、阿良々木の良さの説明が全くされてなくて、貝木はついこんな事を、言ってしまった。
だからひたぎは、そんな貝木の気持ちがわかっているひたぎは、こんな"意地悪"を言い返した。貝木が黙り話題を変えるのをわかっていながら・・・・。
●恨んで憎んでも、嫌いには・・・・
「私を助けたからといって、良い気にならないでね。いえ、勿論感謝はするし、お礼は言うし、もしも貴方が気分を変えて追加料金を要求すると言うのならば、それを支払うつもりもある。いいなりにだってなる。ただ、これで私が昔の恨みや確執を忘れるだなんて思わないで。私は一生、貴方を恨み続ける。憎み続ける。きら、嫌い続けるんだから。(後略)」
そしてひたぎは最後にこう念を押す。貝木がこれ以上ひたぎのために傷つかないように。貝木にこれ以上傷つけられないように・・・・。
貝木はひたぎの願いを叶えてくれただけ、つまり望んだのはひたぎで、ある意味逆恨みなんだけど、恨み憎んだのは本当だろう。でも、それはひたぎが望んだ事。貝木はその願いを叶えてくれただけ、貝木自身が傷つきながら。だから、嫌いにはなれなかった、だから今でも惹かれている・・・・どもったのはこんな理由から。
「私の前に、私と阿良々木君の前に2度と姿を現さないで頂戴」
そして、ひたぎにそんな事を言われながらも、貝木が思い浮かべるのはひたぎと過ごした、那覇の空港や、駅の改札、ミスドの店内・・・・切なすぎる。まさかおっさんに対して"切ない"って形容詞を使う日がくるとは思わなかったよ!(笑)。
「安心しろ、俺は約束を破った事がない」
「そうだったわね。今も昔も、貴方は私に嘘を吐いた事はなかったわ」
そしてこのやり取りで2人の電話は終わるのだった・・・・。
●余接の説得
そして撫子の下に向かう貝木は、駅のプラットホームで余接と出会う。偶然貝木を待ち構えていた余接と。
本当に伊豆湖に逆らうつもりなのか、その報酬が300万なんて安すぎる、伊豆湖を敵に回すとこの業界で生きにくなる、など余接は貝木を説得しようとするけど、貝木の意思は揺るがない。
「そんなに大事なのかね、他人の彼女が。他人の彼女が、そして昔の女が」
「どうやら何か誤解があるようだな。訂正しようとは思わないが」
更に余接がこう核心を突いても、"訂正しない=何を言われても何も言わないけど、それを認めた訳ではない"と拒絶する。貝木は核心を突かれると、黙るか話題を変える。それ以上その話を続けない。
「貴方らしくないよ。貝木。らしくない事をすると、本当ロクな目に遭わないぜ」
だから余接は、今度はこんな事を言いながら"らしくない"事をしたせいで失敗した貝木の過去から攻める事にする。2年前にひたぎのために潰した宗教団体の話を。更に伊豆湖が本当に心配してるのは"らしくない"事をして貝木の心身が損なわれる事だと。
●全てわかった上で失敗した貝木
でも、それでも貝木は聞き入れず、
「戦場ヶ原家を家庭崩壊させたのも、結果的に離婚せざるを得ないような状況に追い込んだのも、もうそれしかなかったからなんじゃないの?お母さんを戦場ヶ原家から切り離さない事には1人娘に未来がないと判断したからじゃないの?」
「ああ、そうそう、その通り。実は俺はとても良い奴だったんだよ。(中略)でも人に言うなよ、恥ずかしいから」
「でもそれも失敗だった。貴方には母親を思う娘の気持ちが理解できてないかった」
「そうそう、そうなんだよ。いやー理解できていなかったなーあの頃の俺。同じ失敗を繰り返さないように気をつけないとな。うん、長い人生これからも頑張っていこう」
更に余接がこう言っても茶化して真面目に取り合わない。でも貝木は黙らなかった、話題を変えなかった。だから、これは図星、核心じゃない。
つまり貝木は全てわかった上で、母親を救う道もあったのに、将来ひたぎが後悔する事もわかっていたのに、"ひたぎがそう望んだから"母親を切り離し、家庭を崩壊させ・・・・失敗した。
「自分で自分が何をやっているか、実はわかってないんじゃない?」
だから、余接はこう指摘した。そしてもし余接が、貝木が母を思う娘の気持ちがわかってなかった事を指摘するつもりだったなら、この指摘はおかしい。余接の話では、貝木は自分が何をしてるかはわかっていた、ただ見立てを誤っただけ。
正解がわかっているのに失敗した、ひたぎへの思いで自分が自分でわからなくなっていた、余接はそう指摘したかったのだろう。
また、上で書いたように、今の撫子は幸せそうだぞ、と言った言葉からも、貝木が"当人が今望む事"を優先していた事がわかる。
それにそうでないと貝木では撫子を助けられない事になる。貝木では、その場凌ぎに撫子を騙すのが精一杯、という事になる。でもそれは違う。きっと貝木なら撫子を人間に戻す事も容易い。貝木が撫子を騙そうとしているのは、
「だから、神様となった千石撫子を"騙して"、私と阿良々木君を"助けて"欲しいのよ」
21話でこう"ひたぎが望んだから"。もしひたぎが
「だから、神様となった千石撫子を人間に戻して欲しいのよ」
と頼んでいたら貝木は最初からそうしただろう。
ひたぎがわざわざ"騙して"と言ったのはいつも通りの詐欺師のやり方でという意味。2年前のひたぎのように撫子を助けようとしたら失敗すると思っていたから。でもきっとそう言っても失敗しなかった。
「だから、神様となった千石撫子を助けてあげて欲しいのよ」
「それは千石撫子を人間に戻すという意味か?」
「そうよ」
そう言っても多分こうなったから。
でもひたぎは言ってしまった、"ひたぎを助けて"と、言ってしまった・・・・だから、恋物語は貝木が本当に"助けたいと思った誰か"を助けられるようになるための物語でもある・・・・筈。
「言葉なんて信用ならないからだろう。口に出して誰かに言ってしまった瞬間に、それは気持ちとはすれ違う。言葉なんてのは全部嘘で全部ペテンだ。どんな真実であろうと語った瞬間に脚色が入る」
後に貝木が撫子に言ったこの台詞に、そんな貝木の苦悩が溢れていた。
●横道 その2
21話の事がでたので、またちょっと横道に(笑)。21話でずっと気になってた事があった。それはひたぎが貝木にジュースをかけた意味。どう考えてもこれは、貝木がひたぎにコーヒーをかけた事と対応している。
ひたぎに思いを寄せている貝木に、金のために体を売っても良いと言ったひたぎ。コーヒーをかけられて当然ですね、むしろ薄い本で目一杯お仕置きされますね(笑)。
ならひたぎがジュースをかけた理由は・・・?それは、ひたぎが頼んだから、貝木はその願いを叶えただけなのに、貝木はそれを全て自分のせいにしたから。貝木自身を傷つけながら、いつもならしないような事までしたのに。
「詐欺は連鎖的に被害を生むから、個人の範囲に収まらない社会悪なのだよなぁ」
21話で貝木はこう言ったけど、いつもの貝木なら連鎖が起こらないようちゃんとターゲットだけを騙していた筈。なのにその詐欺師という生き方まで貶めてひたぎを庇った・・・・。
よって、偽物語で中学生達を騙したのも、ひたぎのためだった。ところが暦とメメがもうひたぎを助けていて、それを知った貝木は途中であっさり手を引いた。きっと、いつもの貝木なら中学生達を巻き込むような"らしくない"事はしなかったから・・・・。
話を戻して、余接が最後にいったこの台詞の失敗には、これもきっと含まれていて・・・・。
「(前略)きっと貝木は千石撫子をあっさり騙せるんだろう。普通に考えればそうなる。だけど、貴方は"こういう時"必ず失敗をする。してきた。少なくとも臥煙さんはそんな風に思ってるんじゃないのかな?ボクから言える事はそんなところだ」
●鬼畜・・・・
でも、そこまで余接が、翼が助言をしたのに、貝木は"ひたぎに頼まれたように"撫子を騙そうとする。
「貝木さんも『私』を騙すんだね」
でもそれを見破った撫子はこう言って・・・・『撫子』ではなく『私』と言ってるから、距離が縮まってるのは確かな筈。
こんな気になる鬼畜な引きをするために、フェイントで1回騙そうとするなんて、ホントに詐欺師だけあって人が悪いんだから・・・・と軽く現実逃避をしたところで(笑)、最終回に続く!
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