●騙されて嬉しかった撫子
冒頭は、賽銭箱の上に座る撫子。その真っ赤な双眸が爛々と輝き、噛み付くように貝木を捕らえて離さない。その目はまるで、獲物の返り血に染まる血に飢えた獣のようだった。文字通り撫子は貝木の嘘に食いついたのだ、頑なに獣を閉じ込めていた鋼の檻を食い破って。
それと同時に、撫子は"嬉しくて"、つい目尻を下げ、口を吊り上げ、笑みを漏らしてしまった。更に、撫子は弾む声で楽しそうにこう嘆く。
「ホント、もう嘘吐き。みんなみんな本当に嘘ばっかり」
可愛い撫子の魔性に惑わされる事なく、『私』にこんな悪意を向けた者は生まれて2人目だったから。やっと自分と同じ闇に出会えたから・・・・。
だから、貝木はすぐ殺されなかった。この言葉が合図だったかのように、奥の神社からおびただしい数の蛇が湧き出して、辺りを蛇の海に変えてしまう。そして、その海に腰上まで飲み込まれ、貝木は動きを封じられてしまった。でも、貝木は暦や忍のように蛇の槍でいきなり貫かれる事はなかった。
無数の蛇が波のようにうねるおぞましい海の上で、魔性の笑みを浮かべ、うっとりと貝木を見つめる撫子。その姿を見て貝木は
「美しい・・・・」
と魅入られたように呟くのだった。純白だった撫子のワンピースが、いつの間にか血の赤に染まっていた。それは、真っ赤に燃え盛る敵意を、撫子の目を外に引き出せた証だろうか。それともその代償を血で贖う暗示だったのだろうか・・・・。
●貝木が撫子を騙した理由
さて、翼の話を聞けば、撫子が他人を信用しないのは明白だった。だから、貝木がわざわざ嘘を吐いたのには理由がある。
お百度参りをする内に撫子に情が移って、撫子の家に忍び込みクローゼットの中を見た。漫画家になりたいのなら神様をやめないか?そう言ったのでは駄目だった理由とは・・・・?
それは多分、撫子は善意を信用できないから。もし本当に善良な者が100%の善意で誰かに仕え奉仕すると言っても、普通はそんな話を信用しない。自分と比べて余りにも善良すぎるから。撫子はそれをもっと極端にした感じだろう。だから、撫子に嘘を吐くような者の方が、撫子は信じる事ができたのだ。
後に貝木が金の話をしたのもそのため。撫子はお賽銭に食いついていた。それは金の価値をわかっている、金を信じている裏返し。人を信じられなくても金なら信じられる。そんな金を信じる貝木なら信じる事ができたから・・・・まあ、割と世の中の真実だしね・・・・ヒロインとしてどうなのよ?ってのを無視すれば(笑)。
●世界が嘘だらけなのは・・・・
話を戻して、その後も撫子の口からは堰を切ったようにその思いが溢れ出し、その体は心のままに蛇の上を舞い踊る。
「本当に嘘ばっかり。本当に嘘ばっかり。本当に嘘ばっかり!世の中って、世界って、この世って、本当に本当に本当に本当に本当に本当に、嘘嘘嘘嘘嘘ばっかりなんだから。本当にもう、嘘吐きなんだから」
「あぁ?誰に言っている?(お前自身にか?)そして何を言っている?」
そんな撫子に貝木はこう切り返す。『私』に嘘を吐いたのは扇と貝木の2人だけ。それで世界は嘘だらけなんて言うのはおかしい。それがこの台詞に込められている1つ目の意味。
でも1人だけ世界に当てはまる者がいる、それは『私』自身。『私』が周り全てを騙しているから、『私』の世界は嘘だらけ。だから世界が嘘だらけなのは『私』のせい。なのにそれが世界の理だと、世界のせいにしている。だから貝木はこう返した。
●ひたぎのナイスアシスト
そして「お前だって周囲の全てを騙してきた癖に」と貝木が言葉を続けると
「嫌いだって言われたんだ。私みたいな可愛いガキは嫌いだって言われたんだ。えっと、誰に言われたんだっけな?誰だっけな?暦お兄ちゃんだったっけな〜?」
と、微笑んで嬉しそうに舞いながらこう答える撫子。『私』と同じ事を思ってくれた。覚えてないけど、こんな良い事を言ってくれたのはきっと暦に違いない、そんな撫子の気持ちが伺える。暦が今まで殺されずに済んだのは、ホントひたぎ(や忍や月火)のおかげだね・・・・。
●『私』を見て欲しい撫子
「だけどそれってどうすれば良いのかな?確かに私は可愛いガキだけれど、けどそれって基本的に私のせいじゃないじゃない?私だってこんな自分は嫌いだよ。(後略)どんな自分でも愛せるような、神様みたいな自分になるしかないじゃない」
その後も撫子の口からはどんどん言葉が溢れ、可愛くて嫌な自分を好きになるためには、神様になっても仕方がないと言う撫子。
でも、貝木はそれを否定する。今までと何も変わらない、「可愛い」と持て囃されるか「神様」と持て囃されるかの違いだと。
「そういうところ、俺の知っている女は違ったぜ。(後略)」
「はぁ・・・・」
そしてひたぎの話をする貝木。すると撫子は途端に興味を失い、面白く無さそうにこう返す。折角『私』を見てくれる者と『私』の事を話しているのに、他の女の事なんてどうでも良かったから。
●貝木は撫子が好き?
「なのに、あいつはあくまで、神に頼らない生き方を選んだんだ。願ったんだ。『成り行きとか、出会い頭とか、誰かのせいとか、何かのせいとか、そういう心地良さそうなの』を全部否定してきた。色々気を回してやった俺を逆恨みする有様だぜ」
でも貝木は更にこう言葉を続ける。
さて、これを聞いて思い浮かぶ光景がある。
『成り行き』で委員長になり、計らずも人の輪に入るきっかけができた撫子。心を閉ざし孤独だったけど『貝木のせい』でクラス中が疑心暗鬼だったから、それを悩む事もなかった撫子。『蛇切縄のせい』で数年ぶりに憧れの暦お兄ちゃんに相談しないといけなくなった撫子。
・・・・偽物語で貝木が中学生達を詐欺にかけた事件はどう考えても撫子のためだった。
だから、21話でひたぎは撫子が『貝木の詐欺の間接的被害者』である事を強調し、本当に撫子を知らないのかと貝木を執拗に問い詰めた。ひたぎも、ひたぎの親から金を騙し取った『貝木の詐欺の間接的被害者』だったから。
つまり、ひたぎは、貝木が撫子を救うためにあの事件を起こしたのだと、撫子の事を知った(なでこメドゥーサの)時点で見抜いていた。だから、21話でひたぎが貝木にジュースをかけた理由は、
・貝木が、ひたぎ(昔の彼女)に、撫子(今の思い人)を庇って全て自分が悪いと言ったから。
・ひたぎが、貝木(昔の彼氏)に、暦(今の彼氏)を助けるために体を売っても良いと言ったから。
だった。貝木がひたぎにコーヒーをかけた事への対比もこれで完璧!・・・・うん、2人ともかけられても仕方ないね(笑)。
また、25話でひたぎにキャバクラ通いみたいと言われて、そんなんじゃないと日本酒を持っていった貝木がツンデレすぎる(笑)。
ただ、25話レビューで書いたように、貝木は相手が言った・願った事しか叶えられなかった筈・・・・なら2人は8ヶ月前に会っていて、撫子の願いを聞いて貝木は動いていた事になる・・・・だとしたら、本当にこの2人は嘘ばっかり・・・・。
理由が理由だから結構当たってる自信はあるんだけど、この前提で考察し直すと修正範囲が広すぎるので、サードシーズンでもしこれが当たってるのがわかったら、その時ドヤ顔でこの記事にリンクしたいと思います(笑)。
「(8ヶ月前)俺はもっと心の問題を重視すべきだったのだ。ここまでこの娘が心を閉ざしていたとは思わなかった。心の闇ではなく『闇の心』だった」
だから、今回の冒頭の貝木の独白はこんな意味になる。
●偽物語の補足
だとすると偽物語の見かたがガラっと変わる。
「この件に関する俺の目標額は300万だ。根を張るまでに2ヶ月以上かけている。最低でもそれくらいは儲けないと割に合わない」
「あんた、それでも人間かよ!?」
「生憎だがこれでも人間だよ。大切なもの(=撫子)を命をかけて守りたいと思う、ただの人間だ」
これは貝木と火憐の会話。まず気になるのは300万。貝木が、らしくない仕事をする時は300万って決めてるなら、貝木に300万を提示した臥煙先輩が意地悪すぎる・・・・「あんな先輩に先輩面されるのは気に入らないな」と言いたくもなるね(笑)。
次にこの会話が交わされたのは7/29。撫子が暦と再会したのが6/11。時期的にもピッタリ。
そして「大切なもの」が切ない。それだけ強く思っていても、貝木はらしくない事をしてるのを自覚していた。今までも強く思えば思うほど空回りし失敗し続けてきたから。
だから、ひたぎに、かつて助けられなかったひたぎに暗にそれを指摘され、貝木はあっさり引き下がった。貝木の事を心配して無理矢理止めさせた面もあった筈だから。
「過去は所詮過去にすぎん。越える事にも、追いつく事にも価値はない。お前ともあろう女が下らん思いに縛られるな。せいぜいそこの男と幸せにすごせ。さらばだ」
だから、貝木はひたぎのために殺した男の事を話し、それを隠れ蓑に"過去=教団幹部"ではなく"過去=貝木"を忘れろと言って立ち去っていった・・・・マジで貝木さんがカッコ良すぎる(笑)。
●違和感
ただ、今回折角助けた撫子の下から躊躇いなく去っていったり・・・・とにかく総合的に余白が多すぎて、色々違和感がある(笑)。
1.ひたぎを忘れられなくて、撫子にひたぎを重ねてた。
2.初恋の相手を忘れられなくて、ひたぎや撫子にその相手を重ねてた。
そこで、勝手にこんな感じなのかな〜と思ってみたり。なので後に貝木が言う「かけがえのないものが嫌い」と言うのが嘘。貝木はずっとそれを引きずっていた。でも、今回の件で貝木もそれを吹っ切れた・・・・のではなく、多分そんな自分を棚に上げて撫子を騙した・・・・のかな、と思ったり思わなかったり。
もうフワフワしすぎてどうしようもないですね(笑)。
「"ただのありふれた偶然なのですけれど"、貝木さんが売り物にしたお呪いが、"どうしてなのか"撫子のクラスでは大流行してしまったのです」
12話では、こんなフラグを立ててるし(笑)、上で書いたように状況的にも貝木が撫子のために中学生達を詐欺に巻き込んだのは間違いないとは思うんだけど・・・・。
●『私』を見て欲しい撫子 その2
「でもさ、それでも現実問題、誰かのせいって事はあるでしょう?出会い頭にしても、行き当たりばったりにしても、私の場合、扇さんのせいってのが絶対にある訳だし」
話を戻して、貝木が別の女の話をするので、それをこう言って自分の話に戻す撫子。扇の名を聞いて貝木は黙って考え込んでしまう。
「抵抗するのは仕方ないけれど、でも暦お兄ちゃん、私を騙そうとしたのは良くないよね。私に嘘を吐いたのは良くないよね」
「阿良々木は別に俺の行動とは関係がねーぜ」
だから、貝木の気を引きたくて、騙された事も嘘を吐かれた事も嬉しい癖に、嬉々としてこううそぶく撫子。それを依頼者はひたぎだからと、半分騙すように否定する貝木。
暦達が事故死したと嘘を吐いた時のようにそれを見抜き、大きく目を見開き、瞳の猛獣を貝木に向け解き放つ撫子。
「あ、これはペナルティだよね。約束は守る。卒業式までは待ってあげる。でももう少し殺そう。罰としてもう少し殺そう。(後略)」
そして楽しそうに、踊るようにこう言い放つ。例え悪意であっても、それは外との繋がり。貝木はこれまでの誰より撫子と繋がりを持つ事ができた。撫子を外に引きずり出す事ができた。
●奥の手
でもまだ足りない。まだ『私』まで届かない。だから貝木は遂に奥の手を出すのだった。
「千石。お前神様になんかなりたかった訳じゃないって言ったよな?」
(中略)
「じゃあお前、漫画家になりたいのか?」
その言葉を聞いた途端、撫子が、うねりまくっていた周囲の海がピタリと止まる。そして一瞬にして、撫子の目からもワンピースからも赤い敵意は消え失せていた。本当は見て欲しかった、話したかった事だから・・・・。
でも、動揺し取り乱した撫子は、転びそうになりながら貝木の下に駆け寄ると蛇の海に沈み動けない貝木の顔を殴りまくる。
●キミとなでっこ!
そして撫子の漫画について色々言う貝木だけど、EDテロップより、原稿は遠山えまさんという漫画家さんが描かれていて、撫子の漫画がマジで上手い。「キミとなでっこ!」っていうタイトルは黒歴史感満載だし、色んな意味で素晴らしい漫画だった(笑)。
●撫子はアホの子
貝木に漫画を批評され、貝木を殺して自分も死ぬと言う撫子。でも、撫子が戻らなければいずれ両親がクローゼットを開けるから、貝木を殺しても無駄だと告げる貝木。
「まあ、でも今すぐ神様をやめて人間に戻り部屋に戻れば、問題なく自分の手で処分できるんじゃないのか?見られるのがそんなに恥ずかしいんだったら、」
「ふざけんな!そんなバカみたいな理由で神様をやめられる訳ないだろう」
更に貝木はこう続け、撫子はこう反論するけど、神様でも原稿を持ち出せる事に気づかないバk・・・・純粋無垢な撫子だった(笑)。
また、貝木の話が進むほど、蛇の海から赤味も消えて、どんどん白くなっていく。混じりっ気なく、夢について、漫画家になる事についてだけ考えられるようなっている事が示されていた。
●伏線回収
そう言う撫子に、誰に聞いても漫画の事はわからなかった。それは撫子がその事を誰にも言わなかったからだと言い、
「それはつまり、お前にとってそれが本当の夢だからだろう」
こう繋げる貝木。前回撫子にした話はこれに繋げるためだった。
●貝木の思いは?
神様にも、幸せにもなりたかった訳じゃないならどうして漫画家にならないんだと言う貝木に、あれは落書きで恥ずかしいから隠してただけ、夢なんかじゃないと答える撫子。
そこで貝木は金の事を話す。なんでも買えるのにかけがえのないものではないから金が好きだと話す貝木。そして逆にかけがえのないものは嫌いだと。
「なあ千石。お前にとって阿良々木以外の事は、どうでも良いくだらない事だったのか?両親の、あの善良な一般市民の事は好きじゃなかったのか?お前の中の優先順位で、阿良々木以外は全部ゴミか?」
「違うよ・・・・」
「ならばどうしてだ?どうして阿良々木だけが特別扱いになる?あいつはお前の分身か何かなのか?」
そして涙声でこう言う貝木。その思いは・・・・
1."かげがえのないもの"に囚われもうやり直せない貝木と違って、撫子はまだ間に合って欲しいと思ったから。
2."かげがえのないもの"に囚われている自分を重ね、一緒にやり直したいと思ったから。
3.惚れたひたぎも撫子も暦の事ばっかり。ひたぎはそれで救われたけど、撫子はそれで駄目になっている。なら、今度は、今度こそは貝木が撫子を暦への確執から救いたいと思ったから。
辺りだと思うんだけど、これもちょっとわからない。意図的に余白を多くして曖昧にしてる・・・・筈、きっと、多分・・・・そうだと良いな(笑)。
「貝木さんに何がわかるの!?貝木さんは私の事なんか何も知らないでしょう?」
その貝木の言葉を聞いて、こう叫びながら貝木を蹴りつける撫子。そのせいで、貝木の口から赤い鮮血が吐き出される。
「色々調べた。だが、そうだ。何も知らない。重要な事は、何も知らない。お前の事は、お前しか知らないんだから。だからお前の事は、お前しか大切にできないんだぜ。そしてお前の夢も、お前にしか叶えられない」
「そんな、とっかえひっかえみたいな、あれで駄目ならこれでいこうみたいな、適当な事、しても良いの人間は?」
更にこの会話の後、貝木は口に溜まった血を近くに吐き出す。そしてこう続ける貝木。
「良いんだよ。人間なんだから。かけがえのない、代わりのないものなんかない。
俺の知ってる女はな、俺の良く知っている女はな、今している恋が常に初恋だって感じだぜ。本当に人を好きになったのは、今がはじめてって感じだぜ。
そしてそれで正しい。そうでなくっちゃ駄目だ。唯一の人間なんて、かけがえのない事柄なんてない。人間は人間だから幾らでもやり直せる。幾らでも買い直せる!」
真っ赤な嘘という言葉の通り、貝木が吐き出した血は嘘の暗示。問題は
1.自分は"かけがえのないもの"に囚われてもうやり直せないけど、それを棚上げし撫子を"騙した(さとした)"。
2.貝木自身を騙していた嘘を吐き出して、貝木も"かけがえのないもの"を撫子と共に乗り越えようと思った。
のどちらなのか・・・・21話の冒頭で貝木が言ってたようにわかんないよ!(泣笑)。
●依頼完了!
そんな貝木の言葉を聞いて、雲間からどんどん陽が差し込んできて、最後には周りを覆っていた蛇の海も消え失せる。
「でも・・・・漫画を描いて神様って呼ばれた人もいたよね。勿体無いと思うんなら、そうなれば良いんだよね」
「ああ。お前ならきっとなれるさ。『騙された』と思ってチャレンジしてみな」
「・・・・わかった。騙されてあげる」
そして最後にこう会話を交わし、遂に貝木は撫子を『騙して』救う事ができたのだった。25話レビューで書いたように、相手が言った・願った事しか叶えられなかった貝木。でも遂に、貝木はそれを元に本当に相手のためになる事をする事ができたのだった。
●貝木さんがカッコ良すぎる!
その後、暦がやってきて色々話す2人。撫子に何を言ったんだ?という暦に、
「当たり前の事を言ったんだ。恋愛だけが全てじゃないとか、他にも楽しみはあるとか、将来を棒に振るなとか、みんな恥ずかしい青春を送ってきたとか、しばらくすれば良い思い出になるとか、そういう、大人が子供に言うような、当たり前の事を言ったんだ。
だから何をしたかと問われれば、俺は当たり前の事をしたまでだ」
こう答えられる貝木がやっぱカッコ良い(笑)。
「恋は人を強くする事もあれば、駄目にする事もある。
戦場ヶ原はお前がいたから多少は強くなったんだ。しかし、千石撫子はお前がいたら駄目になるだけだ。
戦場ヶ原は俺がいたから駄目になった。それをお前が強くした。ま、だから今回は、適材適所というか、その借りを返してやったみたいなもんだ」
更にちゃんとひたぎの時の自分の非を認めた上で、暦に撫子からは手を引けという貝木がもうカッコ良すぎて、余りにカッコ良すぎて、逆に燃え尽きる寸前のロウソク的な死亡フラグに見えてくるよね・・・・。
●ウロボロスの輪
暦の、暦がいなければ撫子は幸せになれるんだろうか?と言う問いに貝木が答える時、切れたアヤトリの紐を結び直した輪が映される。
これがウロボロスの輪だったもの。自分で自分の尻尾に噛み付いた蛇、自分で閉じた世界を作っているウロボロスの輪が、まさに撫子の象徴だった。
でも、今は結ばれているけど、その紐は1回切れている。貝木のお陰で、撫子の閉じた世界は、微かな間だけ、ほんの一瞬だけだったけど確かに開いていた。ウロボロスの輪の本当の意味は、貝木が撫子の閉じた世界に切れ目を入れる事の暗示だった。
だから、撫子の世界は再び閉じているけど、現実で人と面と向かって繋がる事はできないけど、いつか撫子の漫画を通して人と・読者と繋がる事ができる。貝木が作った切れ目から、結び目を解ける日がきっとくる・・・・と信じたい。
●再会を臭わせる貝木
「じゃあ、また会おう」
そして最後に貝木はこう言って、神社から立ち去るのだった。
上で書いたように偽物語では(ひたぎに対してだけど)「さらばだ」と言って別れている。今回ひたぎと別れる時もこれで最後と言って別れている。なのに暦には再会を臭わせて立ち去った。
「今度は間違うなよ、これを使うべき相手を」
「使わないよ、僕はこんなもの、使わない」
これは、貝木が撫子から神の札を取り出して、暦に渡した時の会話。忍を神にする事を拒んでいる暦。だから、忍を神にする時、もしくはそれ以前に何か問題が発生し、今度は暦を救う事になると貝木が考えている事が伺える。
あと地の文で「イイ金ニナツタゼ」と言ってるけど、あんな高級ホテルに1ヶ月も泊まって、飛行機で京都から那覇、那覇からこの町に飛んできて、国内旅行とは言え100万、撫子へのお賽銭を入れたら150万くらいは使ったんじゃ・・・・(笑)。
●ツンデレの応酬
「(前略)老兵はただ去るのみ。後は子供達の時代だ」
「(8ヶ月前、撫子を助けようとして)滅茶苦茶にしておいて、意味もなく格好つけないで・・・・ありがとうございます。助かりました」
そしてひたぎに依頼の完遂を報告する貝木。その時のひたぎの台詞の意味はこんな感じ。
更に2人の会話は続き、貝木の拒絶をスルーして、こんな事を言うひたぎに答える貝木。
「これからは悪い女には気をつけなさい」
「そうだな、お前は手紙を出す時には署名を忘れないよう気をつけろ」
ひたぎは貝木が撫子を助けようとしていた事を知っている。怪異に憑かれた危険な子好きという上級者な貝木(笑)に、(かつての自分も含めて)悪い女には気をつけろと言うひたぎ。
また、ひたぎは貝木の様子から、貝木が撫子を騙すだけではなく助けようとしている事を感じ取って「手を引け」と手紙を出した。貝木が助けようとしたら、ひたぎの時のように貝木自身も傷つけて失敗すると思ったから。
そんな貝木を心配するひたぎに、"悪い女=撫子"で失敗しないよう貝木に手紙を出していたひたぎに、それがバレていた事を明かし・・・・多分自分から電話を切った貝木。ひたぎにこれ以上貝木への思いを残させないために・・・・。
「それはあいつが俺の事を良く知っているからだ。手を引けと言われれば、手を引きたくなくなってしまう俺の性格を、戦場ヶ原ひたぎは良く知っているからだ」
更にひたぎが手紙を出した理由を、こうしれっとでっち上げる貝木。もうツンデレすぎる(笑)。
●人が悪い貝木・・・・
なのに最後、メメがどうして現れなかったのか考えながら歩いていた貝木は、かつて詐欺で騙した中学生男子に襲われ倒れてしまう。その時の生徒の台詞より、生徒を唆したのは扇のようだ。
でもここは見晴らしの良い道で、尾行もできない精神に異常をきたしている者の接近に気づけなかったとは考えにくい。しかも、貝木にはその生徒に自分の蛇のお呪いが返されている事が見えていた。だから、きっとこれは貝木のけじめ。撫子のために巻き込んでしまった事への償い。
ただ、貝木は殺される訳にはいかない。これ以上、貝木のせいでその生徒の心を壊すわけにはいかない。人殺しの罪を負わせる訳にはいかない。だから、死んでしまうような事はない筈・・・・ホント、こんな演出して人が悪いんだから・・・・。
撫子に蹴られて吐いた血より随分黒ずんでいるけど、真っ赤な嘘の暗示である血も沢山流れてるし・・・・ホントに人が悪いんだから(震え声)。
新年だし!いきなりの鬱エンドなんてある訳ない!と言い切ったところで(笑)、恋物語のレビューはこれで終わり!
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丁寧な考察だと思いましたがいくつか気になったことがあるのでコメントします。
>・・・・偽物語で貝木が中学生達を詐欺にかけた事件はどう考えても撫子のためだった。
恋物語1話の自問自答で撫子は知らないと言い切っているから最初から撫子の為にやったようには見えないですね。
貝木が撫子を好きでやった、ひたぎがそれを知ったという描写は無かったですし、
それに2話か3話でひたぎが貝木に撫子の印象を聞かれた時、撫子を知らないと言いました。
ひたぎが撫子を知らないという嘘をつく理由が分かりません。
貝木は撫子に恋をしていたのではなくひたぎに恋をしていたんだと思います。
5話で余接はひたぎを貝木の昔の女と表しています。貝木がひたぎの依頼を受けた理由は神原駿河の為というのはこじつけで本当はひたぎの為では無いでしょうか。
>真っ赤な嘘という言葉の通り、貝木が吐き出した血は嘘の暗示。
血を吐いているからこそ本音なんだと思います。血は貝木の体の一部、つまり心であり本心だと思います。
貝木は詐欺師なので貝木の口からは嘘ばっかり出ます。それなのに嘘じゃなく自分の血を吐きました。私の中では強く印象に残りました。
まず囮物語2話で、撫子は「こっそりと家を出ます」と独白しますが、実際は真逆で両親にわざと気づかれるよう家を出ていました。
なのでクチナワとの会話以外でも、実際の現実世界に影響するレベルで、脳内妄想なんて言い訳ができないレベルで、撫子は嘘を吐いています。
また、kenさんも貝木がひたぎを好きだったと解釈されているようですし、貝木については言うまでもありません。
よって、撫子、貝木ともにその台詞はかなり信憑性の薄いもので、判断材料としては非常に弱いと言えます。
なのでレビューに書いたように、二人の台詞より、数々の状況証拠の方が信頼できると思って、僕の解釈はレビューのようになりました。
「お前、もう少し後先考えて発言した方が良いんじゃないか?」
また、23話で貝木にこんなことを言われるくらい直情的なひたぎが、貝木は撫子のことを本当に知らないだろうと思いつつ、依頼を引き受けて貰うために因縁をつけていた。
そんな解釈よりは「怪異専門」の詐欺師が撫子に潜む怪異を見抜いたから関わっていて、かつて貝木とそんな関係だったひたぎは、貝木と撫子もそんな関係ではないかと予想した、とする方が信憑性が高いかなと思ってレビューのような解釈になりました。
「血」の解釈についてはレビューで書いたように、二通りのどちらかに確定させることはできませんでした。ただ、表の演出ではあんなに真摯に向き合っているのに、それでも素直にそう取れないのは、嘘がないなら貝木の詐欺師ってアイデンティティーがなくなってしまうからです。あそこで素直に本心を言えるような性格なら、貝木もこんな風にはなってない、そんな気がします。
一応補足説明をしましたが、僕の解釈なんて当て馬にでもして、ご自分が正しいと思われる解釈をされるのが一番だと思います。
と、以上が当時の解釈です。ただ、それ以降、
物語シリーズにモブがいない理由、撫子と翼が暦に恋した理由、傷物語が延期された理由
http://kaityou-osusume.seesaa.net/article/415902642.html
こんな解釈を思いついたので、今はもう少し色々掘り下げられるといえば掘り下げられます。
「そんな・・・・とっかえひっかえみたいな・・・・あれがダメならこれでいこうみたいな、適当なこと、しても良いの?、人間は・・・・(人間はちゃんとしなくちゃダメなんじゃないの?生まれた時から怪異の私にはわからないよ)」
「(人間もどきの俺が言えた話じゃないが)良いんだよ。(撫子は怪異じゃなく)人間なんだから(ってのは嘘で怪異を辞めることなんてできはしないが。だが、神よりは人間もどきの方がマシなはずだ)。かけがえのない、代わりのないものなんかない。(後略)」
例えば、貝木が血を吐くシーンの二人の台詞はこんな感じになります・・・・二人とも自分が人間だなんて欠片も実感できてなくて、それでも少しでも人間の近くにいたくて、人間達の輪の淵で羨ましそうに輪の方を見てるんです・・・・。
だから撫子を神から戻したい、せめて人間もどきに戻したい、そんな貝木の真摯な思いは本心ですが、上のような嘘が混じっていました。
猫物語(黒)で、暦が翼に
「(前略)一生お父さんともお母さんとも和解できねぇ。僕が保障する!万が一将来幸せになっても無駄だぞ。どれほどハッピーになろうが、昔がダメだった事実は消えちゃくれないんだ。忘れた頃に思い出す。一生夢に見る。僕達は一生悪夢を見続けるんだ!現実は何も変わらねぇよ」
と言ったように、暦や撫子、怪異に関わったものは自分を人間だなんて全く実感できていません。人間なんてそれこそ姿の見えない、認識すらできない、理解不能な何かで、怪異同士が唯一互いに存在を認識できる仲間なんです。
まあ、これらに関しても違うと思われれば、ご自分が一番正しいと思える解釈をされるのが一番です。
こんな感じですが、宜しければまたお越し下さい。