その演出意図は、化物語14話で羽川翼が言った台詞、
「怪異は怪異、人間は人間、にゃ。一緒にはにゃらないにゃ。にゃにがあっても相容れにゃいにゃ」
が端的に表しています。
つまり、怪異となった阿良々木暦達は、もう人間の世界を生きていないのです。信号機が変わり、電車が通り、多くの人々が生活している痕跡を感じられたとしても、暦達はもう、人間を姿形のあるものとして認識することができません。
『モブを描かないのは、そんな寂しい怪異になってしまった者達の世界を描写するための演出』でした。
●怪異の家系
だから、ひたぎ父も
・怪異になりかけているか
・怪異そのものか
・ひたぎと同じような元怪異か
のいずれかです。
また、猫物語(白)の翼視点で人の姿に見えていた阿良々木母も戦場ヶ原父と同じような存在です。そしてきっと阿良々木父も・・・・。
だから、恋物語・ひたぎエンドの貝木視点で一応人の姿に見えていた、撫子の両親もちょっとアレな感じです。
あと、(那覇?)空港のウェイトレスもまさかの怪異系でしたw
逆に、猫物語(黒)で一瞬だけ、真っ黒にしか映されなかった翼の今の両親は、ほとんど人間です。人間だったから翼と相容れなかった・・・・(怪異を生み出してしまえるほどの闇を心に抱えていない)人間だったから、忍野メメはあんな両親でも、翼の方が悪いと言い切ったのです。
●撫子が暦に恋した理由
また「囮物語・なでこメドゥーサ」では、通学途中にモブが全く出てきません。
なのに、学校内の生徒だけ、人の輪郭の中を輪っかが行き来する姿のモブになっていて、
『貝木のおまじないで怪異になりかかっている生徒達の演出』
になっていました。
あと、更に進んで一応人の形にまで見えてしまっていた撫子の担任は、かなりアレなアレだったのだと思われます。
でも、これってつまり、闇の心を持つ、かなり怪異に近い撫子は、普通の人間を認識できないということなのです。
だからどうして撫子が暦に恋をしたのか?と言えば、
『暦だけがただ一人、撫子と同じ人の姿形に見えたから』
です。
●撫子がクラスメイト達にキレた理由
そんな訳で撫子はきっと、生まれた時から人間もどきのモブの中、ずっと孤独と疎外感にまみれ、縮こまって生きてきたはずです。
それを撫子の心の問題だと切り捨てるのは、生まれた瞬間からあまりにハードモードな人生だった撫子を切り捨てるのは、少し酷(こく)すぎるのではないでしょうか。
撫子も撫子なりに人に溶け込もうと努力していたはずです、仲間になりたかったはずです、認めて欲しかったはずです。
以下は、囮物語・なでこメドゥーサ3話で、撫子がクラスメイト達に叫んだ台詞ですが、
「良いかお前ら、現実を見ろよ!すぎたことでいつまでもウジウジとして、貴重な青春時代を台無しにしやがって。どんだけ無駄なことをしてるかわかってんのか?
お前らは友達だと思ってた奴が自分のことを妬んでたらそれでもう友達じゃなくなるのか?嘘を吐かれたらそれで終わりか?適当なところで折り合いをつけねーと、いつまでもこんな状況が続くんだぞ!
だったら塗り替えなきゃ駄目だろうが!書き替えなきゃ駄目だろうが!
一時期は変なお呪いのせいで誰も信用できなかったけど、ちゃんと仲直りしましたって思い出によ!
ああ、確かにお前達は最低だ。本音と建前を使い分ける偽善者だ。信じた先から裏切るこの世の屑だ。地球上で最も下等な生き物だ。
だけど・・・・だけどどっかに本当もあったはずだろうが!
(心カラノー叫ビ)
嘘だって、本当だったかも知れねーだろ!
嘘や、裏切りや、欺瞞や、偽善を許してやれる度量を持ちやがれや、あぁ〜ん!
いつからお前達は人を選り好みできるほど偉くなったんだ?好き嫌いで人づき合いしてんじゃねーよ!
(ソシテ撫子ハ最後ニー言ヒマシタ。叫ビマシタ。)
俺様はお前達なんか大嫌いだ!だけど、クラスメイトだぜこん畜生が!!」
これには「最低な撫子だけど、それでもクラスメイトなんだ、受け入れてよ!」という悲痛な願いと、こんな状況ですらそれを拒んだクラスメイト達への恨み節が詰まっていました・・・・。
これ、ヤケになった撫子が、クラスメイトたちを罵倒するために、ただ綺麗事を並べ立てたのかと思っていたのですが、全然違ったんですよね。
●撫子はセーフ
ただ、それでも撫子は作中で一、二を争うほど真っ当なこちら側のニンゲン(モドキ)です。
何故なら、こんな啖呵を切ったせいで、
「とりあえず撫子の人生と学校生活は終焉を迎えたとして、だからもう、ついでにいっそ全部終わらそうか」
なんてことになってしまったからです。
他の怪異たちは、こんな窮地に陥らないよう、怪異の力に逃げ、ズルをして、日常の暮らしを『不当に』守っているのです。なのに、クラスメイトたちとの繋がりを求めていながら、漫画家になりたいなんて普通の夢を持ちながら、
『怪異(くちなわ)と同化したせいで人生と学校生活が終焉を迎えたのでは本末転倒すぎます』
しかも撫子は、囮物語4話で神に貶められる、お札を飲む瞬間ですら、
「て、手遅れなことくらい・・・・私が一番わかってるよぉー!」
と、お札を飲み込もうとする自分が悪いのだと、最初から自分の罪を認められていました。
吸血鬼に襲われた、蟹に行き遭ってしまった、不幸にも事故に遭ってしまった、猿の手に意に沿わぬ形で願いを叶えられてしまった、猫や虎は別人格なので全く自覚がありません・・・・なんて卑しい言い訳で自分の罪を認めない(認められなかった)連中とは魂のステージが違うんですよ。
だから、恋物語で、貝木が撫子を助けたあと、阿良々木君に言ったのです。
「今度は間違うなよ、これ(お札)を使うべき相手を」、と。
表の流れでは、撫子が"くちなわ"を口実にお札を盗んだことになっています。
でも、貝木は上記のように言っているんです、
『お札を使ったのは阿良々木君で、使うべき相手を間違えている』、と。
だって、クチナワは撫子が生み出した怪異じゃないから。撫子は、忍を神にしたくないどこかの化物が「囮」にした、可哀想な人柱なのだから・・・・。
●怪異たちが全ての元凶
逆に、化物語2話では、忍野メメがひたぎの件について
「別に悪いことじゃないんだけどねぇ。特に今回の場合、今更思いを取り戻したところで母親が帰って来る訳でも、崩壊した家庭が再生する訳でもない」
と言っています。
『もし母親に問題があったのなら、今更も何も、ひたぎがいつ思いを取り戻そうが、家庭の崩壊を食い止めるなんて不可能です』
母親が壊れたのは、ひたぎのことをどれだけ思い、大病のことをどれだけ心配し、手術の成功をどれだけ喜んだとしても、ひたぎが何の感情も抱かなかったからです。ひたぎは蟹に思いを丸投げしていたから。
だから、もし、ひたぎがもっと早く思いを取り戻していたら母親が帰って来たかもしれないし、家庭が再生したかもしれないのです。
また、猫物語(黒)でもメメは、翼の両親ではなく、翼の方に問題があると明言していました。
だから、怪異に成り下がってしまうほど心に闇を抱えている、ズルに逃げてしまうほど心が弱い、怪異たちにこそトラブルの原因があったのです。
●誇り高い偽物
なのに貝木は、ひたぎが蟹の力に逃げたことを、全力で庇いました。全ては貝木が仕組んだ詐欺のせいだと言って。そんなことをしても、ひたぎの問題は解決しないとわかっていても。ひたぎが自分の罪を認められるようになるまで、心の負担が少しでも軽くなるように。全ては貝木が悪いのだと、そんな言い訳にすがれるように・・・・。
『誇り高い偽物』の専門家。
●撫子の罪は・・・・?
よって、撫子の学校で流行ったというお呪いの元凶は、貝木が助けようとしていたのは・・・・
撫子に呪いをかけ、恋物語の最後では貝木を襲ったモブ中学生、だと撫子のカルマがぐんと減っていい感じなんですけどw
もしくは、ひたぎや真宵が(望まなくても)家庭を壊してしまったように、翼が育ての親(のことなど眼中になくて、普通に暮らすだけで両親)を追い詰めていったように、撫子のせいで周囲が狂ってしまったのか・・・・。
もしくは、お呪いで生徒の大半が疑心暗鬼になれば、唯一、お呪いと関係のなかった撫子に、誰かが話しかけてくれるかもしれないと思ってお呪いを広めたのか・・・・悩ましいところです。
まあ、どの場合だったにせよ、そんな状況ですら、いつまで待っても、撫子に話しかけてくる者はいませんでした。だから撫子は、こんな状況ですら自分に居場所がないなら、もう人間と相容れることはできないんだと絶望してしまいます。
(勿論、扇に唆されていなければ、お札のことを知らなければ、前髪に隠れるようにギリギリ、ニンゲンモドキとして暮らしていけたと、僕は思っていますけど)
でも、それでも撫子は最後にもう一度だけ、仲間に入れてよと、最低な撫子を受け入れてよと、悲痛な、心からの願いをクラスメイト達にぶつけたのでした・・・・。
そんな訳で、やっぱり千石撫子は怪異可愛い!w
●翼と暦も・・・・
あと、翼が暦に恋をしたのもきっと撫子と同じような理由で・・・・そう考えると物語シリーズは凄く悲しく切ない恋の物語なんですよね・・・・。
だからこそ翼は『忍野メメのように』世界を周りたいと言ったのでしょう。いくら頭脳明晰で優秀な翼でも、人間の世界でできることなんて何もないのだから・・・・。
また、上記のような理由で、撫子に認識された暦は、小六時点でもう限りなく人間を辞めていたと思われます。
●傷物語が延期された理由
なので、吸血鬼になる前でも、暦がどこまで人間を認識できていたかは怪しいものがありますが・・・・それでも撫子から見た学校の生徒くらいには認識できていたとすると・・・・
傷物語で暦が忍=キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードに出会う前は、それでも暦の世界にも人もどきのモブがいたはずです。
そして暦は、疎外感、孤独感に包まれながらも、まだ人もどきの中で人として生きていました。
でも、キスショットに血を吸われた瞬間、それらの人もどきさえ暦の世界から消え去ってしまいます。見ていた景色から人の姿だけが、聞こえていた音から人の声だけが消えてしまいました・・・・。
そんなシーンを想像すると、暦を襲った絶望と孤独に胸が潰されそうになります・・・・。
(2017/8/20追記:まあ、本当はそれより遥か前から、阿良々木君は怪異に成り下がっていて、モブのいない、色褪せた世界に生きていたわけですけど。その詳細は、【物語シリーズ 終物語6話】老倉育が手紙に残したのは暦の父親のことだった!?、に書いています)
そして、そんなシーンを描けば、流石にモブがいない演出意図も、物語シリーズの主題も、バレバレになるので、他の映像化が終わるまで、傷物語は延期されたのだと思います。
よって、普通の(人間の)世界を描く物語シリーズを、新房昭之監督の特殊な演出で描いているのではありません。
『特殊な怪異の世界を描く物語シリーズだから、特殊な新房監督の演出で描いているのです』
そんな訳で、モブがいない演出意図がわかると一気に解釈が進んで、物語シリーズを更に深く楽しむことができましたw
といったところで、久々だった物語シリーズのレビューをひとまず終わりたいと思いますw
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