さて、今回最大のポイントは『久美子が本心では、周囲との人間関係より、演奏が上手くなることを望んでいる』ことでした。
7話レビューで書いたように、小学生の久美子は『銀色=内面の成長の暗示』のユーフォニアムを使っていました。
よって、久美子の初期衝動、吹奏楽をはじめた動機は『上手くなりたい』であり、それが今もずっと心の奥底、心の中心に鎮座し続けているのです。
どうしてそう言えるのかというと・・・・
●私服の暗示
まず、県祭り(あがたまつり)当日、色んなキャラの私服が映されます。そして、私服は各キャラが自分をどう評価しているか(どんな自分を目指しているか)を暗示しています。
例えば、着物を着ていた緑と長瀬梨子はおしとやかで控えめな性格です(緑はそんな自分を目指してますが、葉月への接し方を見ると、親しくなるほどグイグイ前に出る性格だと思います)。
次に葉月は、ほぼはじめてスカートを履き、ヘアピンを花形の物に変えていました。女の子として見て貰いたい、本当は女の子らしくしたいと思っていることが窺えます。
●ワンピースとハイヒール
そして麗奈は、闇夜に浮かび上がるような真っ白のワンピースを着ていました。白は混じりけのない純白な思い、スカートの裾が広く、ドレスめいているワンピースは「晴れ着≒特別な服」の暗示です。
「(ハイヒールで)足、痛くないの?」
「痛い。でも、痛いの、嫌いじゃないし」
「・・・・何それ、なんかエロい」
「・・・・変態・・・・ははは」
また後に、山道を登りながら、久美子と麗奈はこんな会話を交わします。特別になるために、敢えて背伸びをして(背伸びをするような靴を履いて)困難な道を歩いている麗奈と、そんな生き方を肯定する久美子が演出されています。
これらより、後の以下の麗奈の台詞
「私、興味ない人とは無理に仲良くなろうと思わない。誰かと同じで安心するなんてバカげてる。当たり前にできあがってる人の流れに、抵抗したいの。(後略)」
「私特別になりたいの。他の奴らと同じになりたくない・・・・だから私はトランペットをやってる。(中略)自分は特別だと思ってるだけの奴じゃない。本物の特別になる」
にあるような麗奈の思いが暗示されていました。
●久美子の自己評価
一方、久美子は冴えない着慣らした服を着ていて、麗奈のワンピースの可憐さに一瞬俯いてそんな格好できたことを後悔します。
『外の下らない世界に合わせ、演奏が上手くなることより他人の顔色を窺うことを選んだ久美子は、冴えなくてくたびれた服のようだ』
と久美子が思っていることが暗示されていました。
●雪女と人間
よって、私服にはそのような暗示が籠もっているので、続く久美子の独白
(高坂さんの真っ白いワンピースと、少しヒンヤリとした青い空気に見蕩れて、私の頭の中は雪女の話で一杯になった。不安を感じながらも、その美しさに惹かれ命を落としてしまう気持ちというのは、こういうものなんだろう)
も、単に麗奈の物理的な美しさに惹かれているだけではありません。
美しいというのは平均から離れているということです。麗奈は、普通の人々の生き方からかけ離れ、人の中で上手く生きることができない、(普通の)人から外れた雪女のような存在です。
でも、演奏の腕よりただ一、二年早く生まれただけの下手糞をレギュラーにしようとする、本気で練習に取り組もうとすると周りに合わせて練習を抑えろと言う。などなど、そんな下らない人の世界から離れているからこそ美しく、そして人の中では生き辛い危険な存在なのです。
勿論、久美子もその危うささを身を以って知っています・・・・知っているのに、麗奈の危うさに不安を覚えながらもその美しさに惹かれてしまう・・・・。
久美子の雪女の話には、そんな暗示が籠められていました。
また、外の世界に抗うことを諦め、冴えない自分に甘んじていた久美子の心に、再び麗奈のように美しくも辛い生き方に惹かれる思いが流れ出したのを、側に流れる小川が演出していました。
熱く熱せられたり、凍りついたり、小川のように流れたり、水溜りのように停滞したり、そして生命の母である水は「(生きた)心」の演出です。
●暗い山道
そして二人は夜の暗い山道を登っていきます。
「制服着て、学校いって、部活いって、家戻って。何かたまにそういうの全部捨てて、十八切符で、どっか旅立ちたくなる・・・・これはその旅代わりみたいなもん」
そこで麗奈がこう言って、昼の平地のような安全で楽な道を捨てて、(暗くて)何があるかわからない危険で険しい道を登っている二人の状況が暗に示されています。
●ユーフォニアムとトランペット
しばらく登った後、麗奈が久美子だけ重いユーフォを持つのは不公平だと、麗奈のトランペットと交換しようと言い出します。
麗奈が(誰に対しても)自己中なのではなく、友達と認めた相手はちゃんと気遣うことが演出されていました。久美子もユーフォを持つ麗奈を見て
「その白ワンピースにユーフォ持たせてるの、背徳感が凄い」
と言うので、同様の演出がされてます。
そして、「白ワンピース=(苦難の多い)美しい生き方」なので、それから逃げている久美子が負い目を感じたことも演出されていました。
●ポニーテール
また、この時、麗奈はユーフォを背負うために髪をポニーテールに結びます。そして、久美子の性格が悪いところに興味が湧いたことなどを話していきます。
よって、ポニーテールは麗奈の久美子と友達になりたい思いを束ね、そのことに集中して話している暗示です。
●祭りの灯り
そして二人が山頂(?)に着くと、輝く夜景が遠くまで続いていました。それを見て、麗奈が「綺麗だね」と呟いて瞳を潤ませるのですが・・・・
二人の位置から柵が設けられた山頂の端までの間に木々や休憩所が挟まり、それらの影で夜景の画面の半分くらいが真っ暗です。
更に、二人が柵に近づくシーンも影が大半で、麗奈が柵のところまでくると麗奈にピントが合わされ、夜景はピンボケしてしまいます。
後に、二人が演奏をはじめると影に遮られたりピンボケしてない夜警が映されますが、演奏をはじめてからは二人とも互いを見詰めていて夜景なんて見ていませんw
「高坂さんは、これが見たかったの?」
「・・・・見たかった、っていうとちょっと違うけど・・・・他人と違うことがしたかったの」
「あれ、お祭りの灯りかな?」
「そんなに塚本が気になる?」
更に、二人はこんな会話を交わします。よって、夜景が見れたのは偶然で、二人とも夜景より相手にピントを合わせて話しています。麗奈はすぐ夜景に背を向けて、久美子を見詰めて話しはじめますし・・・・。
よって、一応「夜景=普通の人達の暮らし」を綺麗だとは思っても、麗奈はその遠さに(孤独な自分を再認識し)瞳を潤ませてしまいます。
そんな状況だったので、麗奈は自分と同じものを感じた久美子と友達になりたいと思ったのです。
だから、二人にとっては夜景より暗い山頂に佇む相手の方が重要というか、夜景はそんな相手の美しさを引き立てる(ピンボケした)背景でしかありませんでした。
●久美子が本当に望んでいたこと
「ねぇ、お祭りの日に山に登るなんてバカなこと、他の人達はしないよね」
「・・・・うん、まあ・・・・」
「久美子ならわかってくれると思って・・・・私、興味ない人とは無理に仲良くなろうと思わない。誰かと同じで安心するなんて、バカげてる。当たり前にできあがってる人の流れに、抵抗したいの。全部は難しいけど。でも、わかるでしょう?そういう意味不明な気持ち」
「・・・・うん、わかるよ」
「私特別になりたいの。他の奴らと同じになりたくない・・・・だから私はトランペットをやってる。(中略)自分は特別だと思ってるだけの奴じゃない。本物の特別になる」
そして二人はこんな会話を続けます。よって、今回二人が山に登ったのは、「祭り=周囲に迎合する大多数」から離れ、辛く険しい生き方でも大事にしたいものがある(本当は演奏だけに没頭したい)という二人の心の演出です。
1話冒頭の会話で、二人はそんな互いの心の内を知り、やっと友達になることができたのです。
そして二人は靴を脱いで=心の枷を外して、麗奈はポニーテールも解いて、他のことを忘れ、二人でただ演奏に、夢のような時間に没頭するのでした・・・・。
●チューバくんの意味
よって、まず5話レビューで書いたチューバくんの解釈が変わります。
5話ラストで手を振っていた「チューバくん=ゆるく周囲に迎合する暗示」は、久美子が梓の誘いを断ってチューバくんとさよならすることができた演出でした。
また、6話レビューでは、久美子がチューバくんになろうと苦労していると書きましたが、本心を押さえ込んで渋々ゆるキャラになろうとしている暗示でした。
「あのシリーズではユーフォのマスコットだしてくれないから、(チューバくんが)代わりです」
久美子がチューバくんについて、こんな風に言っていたのがその伏線です。
だから、表面的には何も変わらないのですが、久美子は中学で上級生と衝突したことを自発的に反省し人づき合いを改めようとしてるのではなく、
『本当は練習に没頭したいのに、不本意ながら衝突しないよう人づき合いをしている』
ということになります。
まあ、本心ではそう思っていても、麗奈もなんとかトランペットパートの優子達と衝突しないようしているし、久美子もチューバくんになろうと頑張っていくのだとは思いますが・・・・。
・・・・ワンチャン、次回のオーディションから久美子がソロパートをあすかと争ったりする可能性がなくはないですけどw
ただ、緑はチューバくん大好き=友達を作るために吹奏楽をやっているようなもので、葉月のことも合わせて、久美子との仲がどうなるのかちょっと心配です・・・・。
あとは細かいことを幾つか・・・・。
●葵のことを引き摺る滝
サブタイキャッチ明けて、音楽室での全体練習が映されます。ここで滝は質問をあすかに投げました。
「今の田中さんの舞は中々のものでした。あのように自由奔放に恥ずかしげもなく、ここの音は軽やかにそして勇ましく」
そして、あすかの答えを聞いて、滝がこう言う時、滝の全身が薄い影に覆われています。これは、滝が葵のことを引き摺っていて、質問し皮肉混じりの評価をしても大丈夫なあすかしか指名できなかった演出・・・・って気がします。
●あすかは元通り?
一方、あすかは香織のフォローで晴香が元気になったことに助けられ、前の調子に戻っています。だからこの後、久美子にもはじめてアドバイスをすることができました。
ただ、後に、あすか、晴香、香織の三人がお参りする時、
「楽器も音楽も全部自分次第でどうにでもなるのに、神様に頼むなんて勿体ないよ」
あすかがこう言いながら二人から視線を逸らすのが微妙に気になるといえば気になります。
●葉月は不憫?
話を戻して、久美子と秀一が下校途中に、湖畔で色々話します。そこで、最近全国にいける気がしてきたという秀一に
「でも、もっと上手くなりたいね」
と久美子は視線を外しながらこう言います。
また、6話ではチューバが上手くなりたいと話す葉月や、一緒に頑張ろうと盛り上がる緑に、久美子は
「上手くなろうね」
と言います。でも、その時、久美子の「顔=表情=心」はおろか全身が隠されていました。しかも、久美子はアイスを食べながらモゴモゴと話していて、二人の話を全く本気にしていません。
更に、今回葉月がほぼ振られるとわかっているのに、久美子は麗奈とのデートを優先して何もフォローをしませんでした。
2話では、あすかに丸め込まれている葉月を見捨てたし、本命の麗奈以外にも(特に葉月に)もう少し優しくしても良いんじゃないかな〜、みたいな・・・・。
まあ、そんな感じで久美子と葉月&緑の仲や、夏紀と優子が一緒に祭りを回っていたこと、麗奈(と久美子)はガチ百合なのか?(笑)などが気になりつつ、9話レビューに続きますw
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