さて、今回は1話の内容を受け、そのアンサーを描いた最終回に相応しい内容でした。
●1話の久美子のポニーテール
まず、1話レビューで書いたように、久美子は中学時代に(下らない上級生と衝突したり)麗奈とすれ違ったりで、心が『縛られ』てしまいます。
そのせいで、久美子は正常な判断力と、前に進もうという意欲を失っていました。吹部の強豪校に入るという解決方法に気付けなかったのはそのためです。もしくは、それに気付いていても実行に移すだけの気力が残っていませんでした。
(強豪校にはやる気のある生徒が集まります。だから、強豪校なら下らない上級生に足を引っ張られることはありません。少なくともその確率はかなり下がるはずです)
でも、それでもそんな状況から抜け出したくて、久美子は自分にできる僅かな抵抗を試みました。知り合いがほとんどいない場所でなら再スタートできるかもしれない、そんな不確かな可能性に望みを託して、久美子は北宇治に進学したのです。
1話のポニーテールは、そんな選択をせざるを得なかった久美子の麗奈への後悔や、いい加減な部員達への絶望に『縛られた』久美子の心を暗示していました。
しかし、そんなボロボロな思いだったとしても、ポニーテールは久美子の疲弊しきった心を結集した『全国に行きたい』という最後の抵抗でした。
「ひゃ〜ポニーテールなんてしちゃって初日から気合入れすぎ」
1話の麻美子のこの台詞がそんな状況を暗示していました。
そんな訳で翌日、久美子はポニテを解きます。北宇治の吹部の惨状を見て、入っても意味がないと失望したからです。だから、登校の電車に乗ってから放課後までが一瞬で過ぎ去りました。
"知り合いがほとんどいない場所でなら再スタートできるかもしれない"という最後の希望が打ち砕かれ、久美子が呆然と放心していた演出です。
●久美子が前に進めた理由
でも放課後の教室で、久美子は葉月や緑と話し、吹奏楽をはじめたきっかけ――麻美子にはじめて吹き方を教わって音を出せた時の喜び――を思い出します。
それと同時に久美子は、久美子のアドバイスではじめて音を出せて喜ぶ葉月に、かつての自分を重ねます。葉月の姿に、ただ音を出せることが楽しいという、忘れていた音楽の喜びを思い出すことができました。そして、音楽の喜びを誰かと共有する(誰かに教える?)楽しさを、はじめて知ることができたのです。
(だから、久美子が(珍しく)6話で葉月の力になろうとしたのは、この体験に拠るところが大きかったのだと思います)
また、葉月と音楽の喜びを共有できたことで、かつて麻美子がそうしてくれた姿と久美子自身が重なり、麻美子が音楽を止めてしまった寂しさが少し和らいだのです。
だから、これらの思いに押されて久美子は吹部に入ります。しかし、久美子がこれらをどこまでポジティブに捉えていたのかは物語的余白になっています。なので解釈はお好きなように、といった感じすw
●強がる緑
ただ、久美子の本当の願いはやっぱり『全国に行きたい』で、12話レビューなどで書いたように、結局、葉月や緑とは一線を引いた付き合いになります。
今回、コンクール会場に着いたバスから降りる時、緑が久美子に
「はい、緑メチャクチャ楽しみなんです!早く演奏したいでーす!」
こんなことを言います。でも「顔=表情=心」が隠され、緑が本心を隠し強がっていることが演出されています。
また、コンクールで二曲目の演奏中に、葉月達が応援メッセージを書き込んだ緑の楽譜が映されます。でもその直前に、緑は背後から逆光の影に沈んでピンボケ気味に映されます。
緑にとっては葉月が一番の友達で、葉月と演奏できなかった寂しさ、悲しさが演出されていました。
●久美子の本心
一方、久美子も緑達より麗奈を選びました。
久美子がかなり本気で全国を目指していたことは、1話レビューで書いた、久美子が麗奈にかけた
「(ダメ金なんかで満足できるなんて)良かったね、金賞で・・・・」
こんな言葉や、1話の"地獄のオルフェ"が流れる時に久美子が見る楽譜の大量の書き込みで演出されています。
「全国に行けたら良いな。中学生の頃からそう思ってた・・・・だけどそれは、(部全体で目指さなければ久美子だけが本気で言ったとしても)口先だけの約束みたいなもので、(他の部員達の意識を変えてまで)本当に実現させようなんて一度も思ったことなかった。
だって、(大半がやる気のないような部に)期待すれば(久美子だけが浮いて)恥をかく。叶いもしない夢を見るのは馬鹿げたことだって思ってたから」
だから、今回の久美子のこの独白は、()で補足したような意味になります。
この時映される、久美子の部屋で、ずっとすぐ取れるところにあったユーフォの本や、1話からずっと机の横に立てかけられているびっしり書き込まれた楽譜が、その暗示――中学の時から久美子が"密かに"持ち続けている音楽への情熱の暗示――です。
一方、ユーフォルビア(≒サボテン)や、誰もいない教室は周囲に対し心を閉ざして心が渇いて、孤独を感じていた久美子の心の暗示です。
でも、久美子はチューバくん(葉月や緑とのゆるい関係)だけでなく、ユーフォくん?(本気で全国を目指す心)を得て(取り戻して)、
「・・・・だけど、願いは口にしないと叶わない。絶対、全国に行く!」
と、夏空に膨れ上がった積乱雲のように、全国への思いを蘇らせることができたのです。
●久美子生還!
また、オルフェは妻をサタンに攫われますが、愛人がいてむしろ好都合だったくらいです。なのに、悪魔に屈して良いのか?なんて『世論』に流され、地獄に妻を取り返しにいく羽目になります・・・・これが、1話で流れた『地獄のオルフェ』のあらすじです。
よって、1話〜11話くらいまで久美子は『世論』に流され、地獄を彷徨っていました。
しかし、世論に自分の願いを訴え、それを絶対叶える!と言えるまでに久美子が成長し、地獄から生還したことが演出されていました。
●ポニテを『結ぶ』!
だから、1話以来再び結ばれた久美子のポニテには、
『そんな久美子の固い意志、結ばれた思いが暗示されていました』
どうして今回のポニテが"縛る"ではなく『結ぶ』と言えるのかと言うと、麗奈が自分の髪をポニーテールにする時、
「久美子・・・・『結ぶ』の手伝って」
と久美子に頼むからです。1話の秀一の
「髪、『縛って』んの?」
と合わせて、各々の暗示が対照的に示されていました。
なので、麗奈のポニーテールも同様に麗奈が「全国に行きたい」という思いを束ね結んでいる暗示です。
●滝と指揮棒
ただ、久美子がこんな風に変われたのは、やる気のなかった部全体を底上げし、上を目指した者が報われる環境を作った滝がいてこそです。
4話ではモブ部員達が、
「って言うかなんであの先生指揮棒使わないの?」
「打点わかり難っ」
こんなことを言っていました。
滝も本心を素直に出さないので、その真意が伝わらず、これまで色々な衝突がありました。
でも、滝なりに真摯にぶつかって、部員達に直接関わろうとしてきました。だから、その思いが部員達にも伝わって、全員でここまで来ることができたのです。
コンクールの演奏中、指揮棒を使わず、直に指揮する滝の優しい手の動きが、そのことを温かく演出していました。
●優子のリボン
あと、トランペット二年・吉川優子のリボンが黄色から赤に変わっています。黄色は憧れの暗示、赤は情熱の暗示です。
だから、香織に憧れていただけだった優子が、自分も上を目指そう(来年は麗奈からソロパートを勝ち取ってみせる?)と情熱を持って音楽に取り組みはじめたことが暗示されていました。
ひとまず、香織の引退と共に優子が吹部を止めることはなさそうなので良かったですw
●サブタイトルの意味
・・・・といったところで、良い最終回だったと〆たいところですが・・・・
まず、今回のサブタイ「さよならコンクール」は、麗奈のソロパートを聞きながら、少し未練ありげに、でも笑って高校最後のコンクール(のソロパート)に"さよなら"できた香織にかかっています。
・・・・でも、どう考えても最終回のサブタイじゃないですよね・・・・金賞(≠ダメ金)だったんだし、「まえ(舞え)!三日月」とか、それこそ「ひびけ!ユーフォニアム」とかで良いと思うんですが・・・・。
●不穏なあすか
そこで気になるのがあすかです。
北宇治高校でバスに乗る前、晴香の掛け声に合わせて
「それではみなさんご唱和下さい。北宇治ファイトー!」
「「「「オー!」」」」
みんなでこう言うのですが、あすかだけ俯いて「オー」と掛け声を返しません。
また、コンクールの演奏直前、暗いステージ上で、あすかは久美子に
「なんか、ちょっと寂しくない? あんなに楽しかった時間が終わっちゃうんだよ。ずっとこのまま夏が続けば良いのに・・・・」
こんな思いを漏らします。演奏前の緊張と、なんらかの理由であすかが感じている喪失感から、思わずポロっと零れた言葉。中の人の演技からも多分
『これが今までで一番あすかの本音に近い言葉な気がします』
「何言ってるんですか、今日が最後じゃないですよ。私達は全国に行くんですから」
「・・・・そうだったね。そう言えばそれが目的だった」
だから、こう言う久美子に、あすかは言葉に詰まりながらこんな答えを返します。
しかも、最後の結果発表で、(多分)関西大会出場が決まりみんなが喜ぶ中、あすかだけが俯いて自分の思いを押し込めます。
そしてEDの一枚絵で、久美子と麗奈はポニーテールをしたままですが、あすかは「ポニーテール=結んだ思い」をもう解いていました。
これは絶対何かある・・・・はずですが、じゃあ何があるのかと言われると・・・・。
7話レビューで書いたように、あすかは本心では部内の繋がりを守ってきた晴香や香織を眩しく思っています。
だから、部が一つになれた今が楽しくて、間近に迫る引退が寂しいというのは、まあわかります。
もしくは、11話の再オーディションで、あすかがまばたきを忘れるほど演奏に吸い込まれた麗奈や、それに必死に追いつこうとしている久美子など、上手い奏者と合奏できて楽しい、とか・・・・。
でも、コンクールに勝ち進む限り、全国優勝するまで引退が延びるなら、寂しいって思うのはもう少し先のはずなんですよね・・・・。
●あすかの家は・・・・
・・・・だから、どうしてもその理由を挙げるなら、4話ではあすかの三者面談が一瞬で終わっていました。また、7話であすかの部屋が映されますが、凄く殺風景で狭い部屋でした。久美子や晴香の部屋と比べたら、その差は歴然です。
そして更に他の女の子の部屋と比較しようとして気付いたのですが、他に自室が出たキャラがいないんですよね・・・・確か。だから、そんな中でわざわざあすかの部屋を見せているのには意味があるはずです。
だとすると、あすかの家が貧乏で進学できないのは勿論、家計を助けるために九月からはバイトもしなくてはいけなくなった・・・・とか?
まあ、なんにせよ、あすかはこれが最後のコンクールだと思っていて、未練を残しながら全然納得できないまま、漢字も書けない子供のようにコンクールに「さよなら」しました。
そして、それこそが今回のサブタイの本当の意味なのです・・・・多分。
●三日月の舞
あと、バスに乗る前の晴香の掛け声を受けて、あすかが
「さあ、会場に私達の三日月が舞うよ!」
と、みんなに発破をかけます。
また、12話では緑がメロンパンを満月に見立て、それに手を伸ばした久美子は偉いと、久美子を励ましていました。
だから、「三日月=今回演奏する二曲目・三日月の舞」は、「満月=最終目標(全国優勝?)」にはまだまだ届かないけど、現時点で北宇治の吹部が夜の闇から脱して、少しだけ輝きはじめたことを暗示していました。
そんな訳で、久美子達は関西大会出場を決め、
「そして、私達の曲は続くのです!」
と、久美子のナレーションが夏空を駆け上がって行くのでした。
といったところで、これにて「響け!ユーフォニアム」のレビューをひとまず〆たいと思いますw
スポンサード リンク
スポンサード リンク
細部の演出まで隅々と考察なされていて、こちらも非常に楽しく読まさせて頂きました、blog主の解釈を読んだ後でまた1話から見てみると、目からウロコといった感じです。
アニメは殆ど見ないのですが(直近だとのんのん1期ぐらい)、やはり全ての演出には意図があるのですね...
1話レビューでも要点は押さえられていたと思っていますが、やっぱり細部がだいぶ違っていて、かなり補足に分量を取られてしまいました。
10〜13話レビュー辺りを読んで下さっていれば、1話の部分は脳内で補足してくれるはず・・・・と甘えようとも思ったのですが、宙ぶらりんにするのは気持ち悪かったので結局補足を書きました・・・・w
なので13話レビューといいつつ、1話&13話レビューみたいになってしまいましたが、この二つは非常に対照的に書かれているので、もし宜しければ1話(以降)を観返して頂くとより味わい深く楽しめるのではないかと思っていますw
大なり小なり全てのシーンには意味がある(と僕は思っている)ので、色々探してみられるのも面白いのではないでしょうか。
こんな感じですが、宜しければまたお越し下さい。
私は吹奏楽部でチューバをやっていたこともあって、本作はたいへん注目していました。
私が解釈に悩んでいるところとして、11話の再オーディションの話で、副部長が香織に炭酸水を渡すシーンです。管楽器奏者は、げっぷをもよおす炭酸水を練習中に飲むことは、めったにありません。なので、副部長の真意をはかりかねています。会長さんはどのように解釈されましたか?
吹奏楽部的に炭酸水にはそういった意味があるのですね、やっぱり経験者の方にしかわからないものがありますね。それがわかればちょっと面白い解釈ができそうです・・・・w
まず、「おくびにも出さない=物事を深く隠して、決して口に出さず、それらしいようすも見せない」という言い回しがあり、この"おくび"というのが「げっぷ」のことです。
普通は炭酸飲料ってだけでこれには結び付けないし、だから僕も思い付かなかったのですが、吹奏楽部的に炭酸飲料にはご提示頂いた様な特別な意味があるとすると、ちょっとこの二つを繋げたくなってきます。
すると、あすかが炭酸を渡したのは「げっぷを出してしまえ≒本心を言ってしまえ」と言いたいあすかの本心の暗示に見えます。
これまでのレビューで書いたように、あすかは本心では香織や晴香を眩しく思っています。そして、あすかはそれに引け目を感じているので、
"香織が部のことより自分を優先しているところを見られたら少しはその罪悪感が薄まるかもしれない"
と思っていたか、
"これまでの経緯を考えたら、香織がそんな我がままを言ってもみんなは味方してくれる"
と思っていたか・・・・。
あすかは頑なに本心を隠しているむっつりさん(笑)なので、どっちかはわからないんですが、後者のような考えならもう少し色々表に漏れ出ているだろうと、個人的には前者の解釈っぽいかな〜と思っていますw
まあ、どっちだったとしても、事態は再オーディションをするまでにこじれてしまいましたが、それでも香織は最後に自分ではなく部を優先し、ソロパートを辞退しました。上記の二つのどっちだったにしても、自分のことばっかりだったあすかは、それを見て思うところがあったはずです。
だから、あすかは13話で本当はまだまだ吹奏楽を続けたかったのに、その思いを押し込んで、関西大会出場の発表を、目を閉じ俯いて受け入れた・・・・のかなと思ってみたり・・・・。
あすかに関する情報は隠されていてどうしても曖昧な感じになるのですが、これで問題なく繋がってる気がするので、個人的にはこう解釈しておこうと思いますw
こんな感じですが、宜しければまたお越し下さい。