例えば、化物語2話で、蟹がうっかり阿良々木君にも重さを戻してしまった、なんてギャグが『阿良々木君視点』で語られていました。
もしそれが本当なら、母親への思いを取り戻し、悔恨の涙を流していたひたぎ。その涙の中には、全く関係ない他人の思いまで混ざっていたことになります。
そんなの興醒めもいいところでしょう。
だから仮に、蟹がうっかり重さを返してしまったとしても、それは阿良々木君の思いでなくてはなりません。標準を遥かに超える百キロの重みは、阿良々木君がズルをし続けてきた罪の重さなのです。
●真宵を見送った直後だというのに
次に、鬼物語のラスト。八九寺真宵が涙ながらに、でも、淡い夕日に解ける精一杯の笑顔で
「大好きでしたよ、阿良々木さん」
と言い遺し、旅立っていきました。
時系列的に、その直後は「しのぶメイル」です。だから視聴者も、鬼物語に続けて、しのぶメイルを観て下さい。真宵が逝った翌朝に、
「どうも最近、忍や斧乃木ちゃん、八九寺と楽しく遊んでいることが多かったせいで僕へのロリコン疑惑が日に日に増している」
なんてことを平気で言える阿良々木君が、まともな精神をしていないのは明らかでしょう。
●囮物語の扇
更に、忍野扇は阿良々木君が作り出した怪異です。だから扇がすることは全て、阿良々木君が望んだことなのです。
では、どうして扇=阿良々木君は撫子にお札の在り処を教えたのでしょう?
勿論、伊豆湖から忍を神にするように、吸血鬼の力を手放すように言われたからです。
だから扇=阿良々木君は、囮物語で、撫子を「囮」にお札を無駄撃ちさせました。
更に扇は、そこに乗じて貝木までをも害します。撫子を助け、阿良々木君にお札を渡しながら
「今度は間違うなよ、これを使うべき相手を」
と、言ってくれた貝木まで。
表の流れでは、撫子が"くちなわ"を口実にお札を盗んだことになっています。
でも、貝木は上記のように言っているんです。
『お札を使ったのは阿良々木君で、使うべき相手を間違えている』、と。
まあ、貝木の半分は嘘らしいですが、僕はこの台詞こそが残り半分の真実だと思います。他の様々なことにぴたっと当てはまるので。
阿良々木君は、扇を使ったズルのおかげで、忍を神にすることなく、ボロボロになりながら撫子を助けようとするお人好し、なんて役を演じられているのです。
一方の撫子は、くちなわと関わったせいで、クラスメイトたちに啖呵を切り、
「とりあえず撫子の人生と学校生活は終焉を迎えたとして、だからもう、ついでにいっそ全部終わらそうか」
なんて状況に陥ってしまいました。
他の怪異たちは、こんな窮地に陥らないよう、怪異の力に逃げ、ズルをして、日常の暮らしを『不当に』守っているのです。
なのに、
『怪異(くちなわ)と同化したせいで人生と学校生活が終焉を迎えたのでは本末転倒すぎます』
しかも撫子は、囮物語4話で神に貶められる、お札を飲む瞬間ですら、
「て、手遅れなことくらい・・・・私が一番わかってるよぉー!」
と、お札を飲み込もうとする自分が悪いのだと、最初から自分の罪を認められていました。
吸血鬼に襲われた、蟹に行き遭ってしまった、不幸にも事故に遭ってしまった、猿の手に意に沿わぬ形で願いを叶えられてしまった、猫や虎は別人格なので全く自覚がありません・・・・なんて卑しい言い訳で自分の罪を認めない(認められなかった)連中とは、魂のステージが違うんですよ。
・・・・だって、クチナワは撫子が生み出した怪異じゃないから。撫子は、忍を神にしたくない化物が「囮」にした、可哀想な人柱なのだから。
●何を言ったところで
では、どうしてメメや伊豆湖や貝木やひたぎは、ずばりそのことを阿良々木君に言わないのか?
勿論、言ったところで、阿良々木君は都合の悪いことを忘れてしまうからです。
終物語の辺りから、その忘れっぷりは異常です。
翼が猫や虎を生み出し、都合の悪い思いの全てを切り捨てて、完璧委員長を『不当に』演じていたように、化物どもには正面から何を言っても無駄なんですよ。
だから、遠回りでも、焦れったくても、確信部分には何も触れないまま、阿良々木君自らが、正解に辿り着くのを見守るしかないのです。
●更生するどころか・・・・
それでも、化物語や偽物語辺りまでは、阿良々木君自身にズルをしている自覚と、更生したいと思う気持ちが、少しは見受けられていました。
しかし、その心は更生するどころか悪化の一途を辿ります。そして結局、阿良々木君は、自らの罪を認め、鬼の力を手放すことなんてできませんでした。
困難な状況に出遭う度、吸血鬼に襲われた、育のことを忘れていた、知らないうちに扇を産み出していた・・・・などなど、その卑しい心がズルズルと、ズルにズルを重ねていったから。
●偽物と本物
なので、そんな阿良々木君が偽物なのは言うまでもないのですが・・・・。
偽物語で、阿良々木君が火憐たちを指して「偽物」と言ったのは、本当にそう思っているからです。
阿良々木君の脳内にだけ存在する理想の、本物の正義にまるで届かない、偽物だと。
一方、阿良々木君が翼に対して「本物」と言うのは、翼がその理想像だったから。ズルをできる怪異なら辿り着ける、本物の正義。悪い心を抱く度、その全てを切り捨てて、本体だけは(エセ)正義を貫ける本物だと。
だから阿良々木君は扇を産み出すことになり・・・・。
・・・・せめて、火憐たちは偽物の怪異、翼こそ本物の怪異、って意味で言ってたらいい・・・・かなぁ?
せめて、偽物語の頃はそのくらいの認識はできていたと思いたいなぁ・・・・。
●貝木がひたぎを助けられなかった理由
あと、化物語2話では、忍野メメがひたぎの件について
「別に悪いことじゃないんだけどねぇ。特に今回の場合、今更思いを取り戻したところで母親が帰って来る訳でも、崩壊した家庭が再生する訳でもない」
と言っています。
『もし母親に問題があったのなら、今更も何も、ひたぎがいつ思いを取り戻そうが、家庭の崩壊を食い止めるなんて不可能です』
母親が壊れたのは、ひたぎのことをどれだけ思い、大病のことをどれだけ心配し、手術の成功をどれだけ喜んだとしても、ひたぎが(蟹に思いを丸投げし)何の感情も抱かなかったからです。
だから、もし、ひたぎがもっと早く思いを取り戻していたら母親が帰って来たかもしれないし、家庭が再生したかもしれないのです。
また、猫物語(黒)でもメメは、翼の両親ではなく、翼の方に問題があると断言していました。
だから、怪異に成り下がってしまうほど心に闇を抱えている、ズルに逃げてしまうほど心が弱い、怪異たちにこそトラブルの原因があったのです。
なのに貝木は、ひたぎが蟹の力に逃げたことを、全力で庇いました。全ては貝木が仕組んだ詐欺のせいだと。
そんなことをしても、ひたぎの問題は解決しないとわかっていても。ひたぎが自分の罪を認められるようになるまで、心の負担が少しでも軽くなるように。全ては貝木が悪いのだと、そんな言い訳にすがれるように・・・・。
『誇り高い偽物』の専門家。
だから、元々貝木はカッコ良かったですが、アレな化物と並べて書くと更にそれが際立つな〜、なんて思いつつ、ひとまずこの記事を終わりたいと思いますw
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