さて、怪異の問題は『心の問題』であり、それを雑に扱うと物語シリーズの世界が一気に陳腐化します。
例えば、化物語2話で、蟹がうっかり阿良々木君にも重さを戻してしまった、なんてギャグが『阿良々木君視点』で語られていました。
もしそれが本当なら、母親への思いを取り戻し、悔恨の涙を流していたひたぎ。その涙の中には全く関係のない他人の思いまで混ざっていた、なんてことになってしまいます。
勿論、本当は、蟹に思いを押し付けていた、ズルをしていた阿良々木君が、自身の罪を認めたくないから、蟹(神様)は大雑把なんて嘘を捏造した、と僕は思っていますけど。
(そこら辺の詳細は、【物語シリーズ 終物語9話】化物語2話で既に示されていた終物語の展開!、に書いています)
更に、終物語10話(しのぶメイル)は、鬼物語の直後です。
八九寺真宵が涙ながらに、でも、淡い夕日に解ける精一杯の笑顔で
「大好きでしたよ、阿良々木さん」
と言い遺し、旅立っていったその晩なんですよ。
なのに翌朝、
「どうも最近、忍や斧乃木ちゃん、八九寺と楽しく遊んでいることが多かったせいで僕へのロリコン疑惑が日に日に増している」
なんてことを平気で言える阿良々木君が、普通の精神をしていないのは明らかでしょう。
(こちらも詳細は、【物語シリーズ 終物語10話】物語シリーズが時系列順でない理由、に書いています)
●囮物語の真相
そこで、そんな阿良々木君に、伊豆湖がお札を渡してみると・・・・。
「囮」物語で、阿良々木君(=扇)は撫子を「囮」に、お札を押し付けました。
だから、撫子を助けたあと、貝木が
「今度は間違うなよ、これを使うべき相手を」
と、阿良々木君にお札を渡したんですよ。
表の流れでは、撫子が"くちなわ"を口実にお札を盗んだことになっています。
でも、貝木は上記のように言っているんです、
『お札を使ったのは阿良々木君で、使うべき相手を間違えている』、と。
この扇を使ったズルのおかげで、阿良々木君は、忍を神にすることなく、ボロボロになりながら撫子を助けようとするお人好し、なんて役を『不当に』演じられているのです。
一方の撫子は、くちなわと関わったせいで、クラスメイトたちに啖呵を切り、
「とりあえず撫子の人生と学校生活は終焉を迎えたとして、だからもう、ついでにいっそ全部終わらそうか」
なんて状況に陥ってしまいました。
他の怪異たちは、こんな窮地に陥らないよう、怪異の力に逃げ、ズルをして、日常の暮らしを『不当に』守っているのです。
なのに、漫画家になりたいなんて普通の夢を持ちながら、
『怪異(くちなわ)と同化したせいで人生と学校生活が終焉を迎えたのでは本末転倒すぎます』
しかも撫子は、囮物語4話で神に貶められる、お札を飲む瞬間ですら、
「て、手遅れなことくらい・・・・私が一番わかってるよぉー!」
と、お札を飲み込もうとする自分が悪いのだと、最初から自分の罪を認められていました。
吸血鬼に襲われた、蟹に行き遭ってしまった、不幸にも事故に遭ってしまった、猿の手に意に沿わぬ形で願いを叶えられてしまった、猫や虎は別人格なので全く自覚がありません・・・・なんて卑しい言い訳で自分の罪を認めない(認められなかった)連中とは、魂のステージが違うんですよ。
それに撫子がくちなわを「囮」に罪をなすりつけたと解釈するなら、上記の吸血鬼から虎までが全部「囮」です。物語シリーズのほとんが囮物語になってしまいます。
よって、くちなわは撫子が生み出した怪異ではありません。撫子は単に、忍を神にしたくない化物が「囮」にした、可哀想な人柱なのだから。
これらより、阿良々木君の本性を正しく捉えると・・・・
●阿良々木父
まず、怪異の王、吸血鬼にまで行き遭ってしまった阿良々木君。
ひたぎクラブで、自らの罪を認められたひたぎでさえ、母親の人生をぶち壊しているのです。なら、怪異の王にまで成り下がった阿良々木君の罪が、表で語られているようなヌルいものであるはずがありません。
また、上記した阿良々木君の嘘をはじめ、これまで他の記事で書いてきたように、物語シリーズのキャラ達はみんなみんな、大嘘吐きばかりです。
よって、猫物語(白)で翼が、阿良々木君のご両親に会った、なんて口先だけで言っていても。
恋物語でひたぎが、阿良々木家で家族ぐるみの付き合いをしたなんて口先で言っていても。
阿良々木父の姿が、回想形式のイメージ図ですら描かれないなら、その生存を疑いたくなるのは当然でしょう。
(生きていたとしても、ひたぎ母のように心を壊されているはずです)
だから、猫物語(白)で阿良々木母が翼に言った台詞は
「人は嫌なことがあったらどんどん逃げていいんだけれど、目を逸らしているだけじゃ逃げたことにはならないんだよ」
「家族はいなきゃいけないものじゃないけれど、いたら嬉しいものであるべきなんだ」
=だから私たちは、いても嬉しくない阿良々木父を消した
って意味だったのです。
なので、全然関係ないのですが、終物語3話の阿良々木君(中学生)の笑顔が心底ムカついた僕の感性は正しかったのかな〜と思ってみたり。
●育はセーフ
そんな化物家族を見てしまうと、育なんて余裕のセーフにしか見えない訳ですがw、その理由を詳しく挙げてみたいと思います。
まず、戦場ヶ原ひたぎが育のことを「大したことなかった」と言っています。
また、羽川翼も忍野扇も、育を全く問題視していません。
育は超常の力を、『怪異』の力を使えないから、怪異になんて成り下がっていないから・・・・。
よって、子供の頃、不幸にも阿良々木家なんて○○○○に保護された育は、ある日偶然(阿良々木父の部屋に入り?)朽ち果てた阿良々木父の姿を目にします。なのに壁一枚隔てたすぐ側で、笑顔で遊ぶあまりにもアレすぎる阿良々木兄妹を見て、底辺だと思っていた育がどれだけマシだったかを痛感し、おぞましい阿良々木家から逃げ出しました。
そして・・・・
・ケース1
そのおかげで育は母親が餓死していくのを見殺しにしてしまっても、その罪悪感、人間としての心を捨て『怪異』に成り下がることだけは免れることができました。だから、阿良々木君のおかげで『怪異』に成り下がらずに済んだ育は、育の惨状を阿良々木君に認識させることで、阿良々木君もそうなのだと伝え(自分が少しでもマシなニンゲンだと思いたくて、その)借りを返そうとしたのです。
・ケース2
育の心が改善したおかげで、『怪異モドキ』である育のせいで崩壊しかけていた家庭は(両親の離婚という形だったにしても)なんとか持ちこたえることができました。だから、育はその借りを返そうと、母親を餓死させたという自作自演の事件で阿良々木君に阿良々木君がしていることを認識させようとして・・・・。
みたいな感じなのかな〜と思ってます。
よって、五年前、育が机の裏に貼り付けていった封筒の中の手紙にも、今回のラストの育の手紙にも、
『阿良々木君は父親を殺したことを忘れているけど、その現実から目を逸らすだけではなく逃げ出しているけど、逃げるのを止めそのことにちゃんと向き合って欲しい』
的なことが書かれていた・・・・のだと思います。
だから、育の台詞、
「自分が(父親を見殺し(?)にしておいて、それを忘れて)幸せな(生活が送れている)理由を知らない奴が嫌い(だからそれを思い出して欲しい)」
にはこんな意味が隠されていました。
●OP考察
そう考えると、OPの「mathemagics」で、育と阿良々木君が鏡合わせのように絡み合っている演出や
太陽も消えた夏
一人きりで私が
導き出した答え
それは君だった
見つかったの
誰よりも正しいはずの答えを
これらの歌詞も納得ですw
●阿良々木一家は・・・・
まあ、阿良々木父が普通に生きていて、幸せな家庭を見せ付けられた育が道を踏み外した、って方が自然な流れで上記の解釈は深読みしすぎだと思われる方もおられると思います。
でも、上記したように、それで阿良々木君の罪が消えるわけではありません。吸血鬼に成り下がるほどの罪、ひたぎや真宵と違い、その罪を認め、怪異の力を手放すことすらできない化物。
阿良々木父でないなら、他の誰かを殺すかその人生をぶち壊している阿良々木君と、その同類の化物一家。
それが、育のような不幸な境遇な子供を助ける、なんて偽善を掲げ、未熟な育は、そんな偽物の家庭にさえ劣等感を覚え追い詰められていった。
それじゃあ、あまりにも救いがなさ過ぎでしょう。阿良々木一家のやること為すこと全てが事態を悪化させるだけ。育も何ら救われることなく、単なる犠牲者の一人にすぎないなんて・・・・。
(まあ、僕の解釈でも、結果オーライなだけで、化物一家がアレなのは変わりませんけど)
●つばさファミリー
そんなわけで、「そだちリドル」という副題は、育が阿良々木君のために仕掛けたリドル、って意味になります。
なら「つばさファミリー」も、それと同じく、翼が阿良々木君のために見せた家庭の惨状、となり非常にすっきりするんですよね。
家に全く居場所のない翼を、阿良々木家に全く痕跡のない阿良々木父に重ね、阿良々木君の記憶を呼び起こそうとした・・・・。
そして、翼が父親に翼を殴らせたのも、父親のDVを阿良々木君に思い出させるためで、月火の胸にあったという傷跡もDVの名残りだった・・・・みたいな。
だから、阿良々木君が、翼父のDVに対し
「(父親を庇う)そんな羽川が、僕は友人として、素直に気持ち悪かった」
と過剰な反応を示したことに違和感があったのですが、それもこれですっきりですw
(DVなどを行った?)阿良々木父を悪人に、自身を正義の味方にして、己の悪行を正当化している阿良々木君には、さぞや不愉快な会話だったことでしょう。
●まよいキョンシー
あと、そんなことを考えていたら「まよいキョンシー」の意味についても思い当たることがあったので、ついでに書いておきたいと思いますw
上記のような理由で育がセーフなら、『怪異』に成り下がり、くらやみに消去対象として認識されている真宵はアウト以外の何者でもありません。
だから真宵の母も、阿良々木父のように、ひたぎ母のように、敢えて書かれない、隠されるくらい凄惨な状況になっていたはずです。
(化物語で、ひたぎや真宵の過去だけが、実写混じりやイヌカレー演出で描かれたのは、それが異物、普通じゃない=化物たちが自身を正当化するために捏造した物語であることの演出です)
なのに、そんな状況なのに、どこかの阿呆が「終わるべき」真宵の命だけを不当に救ってしまいました。
だから、自分の闇の心に向き合うことができないままの真宵は、(望まなくても、翼が両親を追い詰めていったように)再び母を壊し、生きる屍、キョンシーと呼ぶに相応しい死んだような日々を送るハメになってしまったのです。
よって、忍野メメの手紙の最後にあった
「でも、阿良々木君、目の前の女の子は救った方がいい」
の『目の前の女の子』とは真宵のことでもあったのです・・・・きっと。
●つきひフェニックス
あと、育のことを覚えてなかった月火と火憐も、阿良々木君を思い遣って嘘を吐いてない限り父殺しの共犯で普通にアウトな感じです。
何より、怪異として生まれる以上、フェニックスが戦場ヶ原家や老倉家のように、『ニンゲン』の家庭を崩壊させるのは火を見るより明らかです・・・・フェニックスだけにw
だから、影縫余弦は偽物語10話で
「化物の偽物が、人間の家族に混じって、人間のふりして、人間を騙して生きとんのやで。そういうのを指してな、うちらは悪言うんや」
と言ったのだと思いますが・・・・もうニンゲンの父親は殺されてしまっていて、『怪異モドキ』しかいない阿良々木家ならそんな心配はありません・・・・w
だから、偽物語は本当に偽物の物語だったんだな〜と思ってみたり・・・・。
といったところで、終物語7話に続きます。
スポンサード リンク
スポンサード リンク