さて、ニコニコ動画様にある公式様のページの『あらすじ』が以下のように凄まじいネタバレをしていた第三話ですw
“死別”をテーマに、夏祭りで再会した少年のハルカと少女ゆかりの物語。ゆかりは夏の少し前に事故で亡くなっているが、ある夏の夜、ハルカとの約束を守るために夏祭りにやってくる。
●ハルカが一人だった理由
そんな訳で、ハルカが一人で夏祭りに来ていたのは、ゆかりと再会した時、ゆかりも言っていたように『今年の夏祭りは一緒に回ろう』と約束していたからでした。
といったところで、冒頭から話を追っていきたいと思います。
●焼け跡のはずなのに・・・・
まず、ゆかりは自宅の玄関で母親に浴衣を着付けて貰います。
なので、ゆかりは本来焼け跡であるはずの自宅を直視できていない、自分の死を受け入れられていないのです。
「(お盆は)もう死んじゃった人が帰って来る日なのよ」
「もう死んじゃった人・・・・? じゃあ、ハルカ君とも会えるんだね」
なので、母親の言葉にこういって無邪気に喜ぶゆかりを見て、母親(と父親)は
「そうね・・・・会えるかも、しれないわね」
と、ゆかりを抱き締めずにはいられませんでした。
これより、両親は自分達が亡くなったことを自覚していますが、ゆかりにそのことを伝えられず、三人共に成仏できていないのだと思われます。
●再会、紫雲
そんな訳で、ゆかりが夏祭りに行くと、ハルカも暗い顔で夏祭りに来ていました。
ハルカに再会できてはしゃぐゆかりとは対照的に、戸惑うように張り付いた笑顔を見せるハルカ。
更に、ゆかりがハイテンションで
「約束したもんね! 今年の夏祭り一緒に回ろうってね」
と話す時も、ゆかりの後ろ頭と戸惑うハルカの顔が映されます。何も裏がない普通のシーンなら、満面の笑顔のゆかりとハルカの後ろ頭を映すはずなんですよね。そんなシーンを想像し本編のものと比べて頂ければ、そのネガティブな演出意図をわかって頂けると思います。
「嬉しいー! ねぇ、行こう! ほぉらぁ!」
しかも、ゆかりがこう続けるところは、もう二人の姿が映されず、夏宵の紫に暮れる空(雲)が映されていました。
紫雲とは、「高僧が臨終の時、仏が乗って来迎する雲。吉兆とされる」もので、ゆかりが成仏することを、淡く、切なく暗示していました。
・・・・余談ですが、いくら吉兆でも乗り物にこの名前を付けたらダメ、絶対って感じらしいです、過去の統計的に・・・・。
これらより、ゆかりは自分の死を自覚していないのではなく、薄々感づいていてもそれを拒絶している、だから、そんな思いを誤魔化すように精一杯はしゃいでいた・・・・のだと思います。
●回る風車
そして、二人は屋台を巡る訳ですが、明るく振る舞うゆかりとは対照的に、ハルカはずっとぎこちない笑顔のままでした。どれだけゆかりに再会できたことが嬉しくても、心から笑うことなんてできなかったから・・・・。
なので、生前は満面の笑みで笑い合えていたハルカのそんな様子を感じ取り、ゆかりも徐々に自分が亡くなっていることを自覚していったのだと思います。
でも、それでもハルカが一生懸命ゆかりに寄り添い夏祭りを回ってくれたから、ゆかりの未練が薄らいでもいったのです。
そんなゆかりの変化が
「ほぉらぁ、急いで急いで」
と声を上げながら走るゆかりの起こした風で、次々に回り出す屋台の風車達に演出されていました。
風車は"右回り=正しい方向"に回っていて、
『ゆかりがこの世の理に則っている=正しい道を進んでいる=成仏に向かっている』
ことが示されています。
ゆかりの起こした風は、「新しい空気の流れ≒亡くなった時に止まっていたゆかりの時間が動き出した」ことの証なのだから・・・・。
●握り締めた手は
その後、二人が笑い合うところが映されますが、ハルカの笑顔がかなり自然な感じになっています。
続く二人が手を繋いでいるところでも、ほぼ指を伸ばしたままのゆかりの手を、ハルカの方が握っていました。
ハルカは、ゆかりがもう亡くなっているとわかっていても、その笑顔が嬉しくて、このままずっと一緒にいたいと思わずにはいられなかったから・・・・。
●手を離しても・・・・今日はさよならしても
でも、夏祭りも終わりに近付き、ゆかりと同じく現世に戻り祭りに紛れていた者達がどんどん彼岸へ戻っていきます。ゆかりにはそんな周囲の気配がわかってしまうのです。
だからゆかりは、ハルカの肩にしがみ付きながら、
「いなくならない? この、この手のね、ギュってのね、ギュってのね、パーしたらね、ハルカ君、いなくなっちゃわない?・・・・ねぇ、いなくなっちゃわない?」
と言わずにはいられませんでした。
でも、そんなゆかりにハルカは
「いなくならない・・・・手を離しても・・・・今日はさよならしても、ゆかりちゃんが呼んでくれたら、きっと、僕、いつでもゆかりちゃんと一緒にいられると思う」
と、答えてくれました。
きっとハルカは、約束していたという以上に、ゆかりに呼ばれた気がしたから一人で夏祭りを回っていたのでしょう。だから、ハルカがゆかりを覚えている限り、いつでもゆかりの声はハルカに届く、そんな絆があるんだよと、ハルカは答えているのです。
・・・・幽霊であるゆかりをちょっと怖いと思う気持ち、もし次に呼ばれた時、本当にその声に気付けるのだろうかと不安に思う気持ちを心の片隅に抱えつつ。
●名残惜しさがありつつも
だから二人は、どうしても翳ってしまうけれど、それでも笑顔でそれぞれの場所に戻って行くことができました。
二人が手を離したあと、互いに後ろ髪を引かれる思いでしばらくその手を下げることができなかったけれど。
更に、ゆかりは離れていくハルカをずっと名残惜しそうに見続けてしまいましたが、その姿が見えなくなると、自分から振り返り、歩き出すことができました。
●未練は止めようがないけれど・・・・
だから、その後ゆかりが両親と楽しそうに帰った家がちゃんと焼け跡になっていたのです。ゆかりがその本来の姿を受け入れることができたから、両親と一緒にいるべき世界に旅立つことができたから・・・・。
だから、夏祭りから戻ったハルカが気付くと、いつのまにか尻のポケットに風車が一本刺さっていました。ゆかりがこの世の理に従い旅立っていった足跡が。
ハルカがその風車に息を吹きかけると、この世の理(≒物理法則)に従って"右回り"に回ります。笑いながら走るゆかりの姿を映しつつ。
でも、それが本来の道なのだとわかっていても、湧き上がる哀惜の気持ちをどうすることもできなくて、横から横槍を入れる夜風に風車は激しく"左回り"に回るのでした。それが本来の姿でないとしても、ゆかりともっと一緒にいたかった、と・・・・。
といったところで、
旅街レイトショー 4夜「Clover」
に続きます。
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